ヤン・アッカーマンがニューヨークのヒルトン・ホテルに滞在中、ハンバーガーを食べながら「トムとジェリー」を見ていたときに浮かんだのが「ハンバーガー・コンチェルト」というタイトルだったという。
オランダというと、レンブラントであり、フェルメールだ。
あるいはコンセルトヘボウか、アンネ・フランクか。
光と影という対比、手法は、フォーカスの方法にもいかにも当てはまる。
そして、ジェルジ・リゲティが後に「ハンブルク・コンチェルト」を創作したが、果たしてこれは偶然なのかどうなのか。少なくとも古今東西あらゆるイディオムを吸収したであろうリゲティがフォーカスの存在を、その音楽を知らなかったとは思えない。
フォーカスの方法も多岐にわたるイディオムの宝庫だ。中世・ルネサンス的音調からジャズの方法、もちろんロックンロールの漲るエネルギーも顕著だ。
誰だって生きるに足る意味を持ちたい—そう思っているに違いありません。しかしそれは私たちが自分の外にそれを求めるかぎり決して見つかることはありません。
私がそれを繰り返す必要はないほど、古来私たちに残された古典は、そのことを語っています。私たちの生きる意味、また生きる喜びは私たちの心のなかにしかない—それらの書物はつねにそう語っています。そしてそのことは単純に、自分がひとり落着いて、自分の死について、時の否定作用について考えめぐらすとき、心の底から現われてくる一つの決意とも言えるものです。
そんな落着きを手に入れ、我にかえるようなとき、私たちは、自分がいまここにいること、日の光があること、夜が町々を包んでいることが、信じられぬような不思議なことに見える瞬間があるものです。おそらく芭蕉もそういう瞬間を直覚したことがあったでしょう。「よく見れば薺花さく垣根かな」の句などは、こうした瞬間の驚きを的確に定着していると思います。
~「辻邦生全集17」(新潮社)P396
1974年の秋に認められた辻邦生の「解題」には、辻が自分に正直に、そして瞬間を大切に生きていたことがわかるエピソードが満載だ。
フォーカスの5作目「ハンバーガー・コンチェルト」。
・Focus:Hamburger Concerto” (1974)
Personnel
Thijs van Leer (Hammond organ, flute, piano, harpsichord, moog, ARP synthesizer, recorder, mellotron, accordion, pipe organ, the organ of St.Mary the Virgin, Barnes, vocals)
Jan Akkerman (guitars, lute, timpani, handclaps)
Bert Ruiter (bass guitar, autoharp, triangles, finger cymbals, bells, handclaps)
Colin Allen (drums, congas, tambourine, castanets, cabasa, wood block, gong, timpani, handclaps, flexatone, cuica)
リリースから半世紀。
アルバムの冒頭は、ヨアヒム・ファン・デン・フーヴ作曲によるリュートの小品をヤン・アッカーマンがアレンジしたもの。タイス・ファン・レールとヤン・アッカーマンによるクラシックとロックの融合は、他のいかなるプログレ・バンドよりポピュラーであり、また崇高だ。「ハーレム・スカーレム」の俗世的狂騒、そして「ストラスブルグの聖堂」における静謐かつ聖なる音響、その対比に心が動く。
タイトル曲のスターターはハイドン(作といわれる)の「聖アントニウス」のコラール主題によるもの。この天国的な調べが見事に変奏され、途中、ビートルズ的なシーンを垣間見せながら、音楽はどんどん高揚していく様子に僕は魅了される。
「トムとジェリー」とハンバーガー。何とジャンキーなのだろう。
そういう輩から創出された奇蹟の音楽だ。