バックハウス ベーム指揮ウィーン・フィル ブラームス ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83(1967.4録音)

そもそもジャケットが懐かしい。
僕が本格的に音楽鑑賞を嗜み始めたのは高校1年生のときだった。当時はほぼFM放送のエアチェックにお世話になっていたが、時折購入するLPレコードについては、盤面が擦り切れるのを恐れて専らカセットテープにダビングし、繰り返し聴いたものだ。バックハウスの独奏によるブラームスのピアノ協奏曲第2番についてもそれこそテープがダメになるくらい徹底的に聴いた。

名曲ゆえ名演奏も多い。しかし、50余年を経た今も(刷り込みもあろうが)随一の名盤だと個人的に思う。最晩年のバックハウスの枯淡の境地とはいえない、ベームと丁々発止の果し合いをなすべく音楽に没入する様が聴いていてはっきりわかる。
それに、ベーム指揮するウィーン・フィルのバックハウスのピアノを包み込む寛容さ、特に主題を奏するホルンのそこはかとない、愁いを帯びた調べに懐かしさが込み上げる。

・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1967.4.14-18録音)

全編生命力に溢れる美しさ。
生きていることの幸福を思う。

今日、長野に向かう新幹線の中で辻邦生を読んでいて、こんなフレーズが目に飛び込んできた。

もともと私は北杜夫とともに信州松本でマンの諸作品に没頭した一時期があり、トーマス・マンという名を聞くと、雲の美しい信州の風物とともに、青春の断片が記憶の底から噴きあげてくるような気持になったものだった。『ヴェニスに死す』や『悩みのひととき』『トニオ・クレーゲル』などは、私は、学校の教科書はまったく放棄していたくせに、辞書を頼りに懸命に読んだ記憶がある。
「アールスガルドまで」
「辻邦生全集17」(新潮社)P322

青春時代というのは時間を持て余し、そのお陰で長編小説や長尺の音楽作品にどっぷり浸ることができる佳き時代だ。ワーグナーなどもこれから勉強するとなると大変だ。もちろんブラームスにしたって作品番号付きのものだけで120を超えるのだから想像以上に至難。
高校時代、友人と繰り返しとことん音楽を聴いて共有したあの時間はとても貴重だった。

過去記事(2009年1月18日)


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