ケンプ ファン・ケンペン指揮ベルリン・フィル ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73「皇帝」(1953.5録音)

人の感性は様々だ。
何に感動し、何に失望するかは十人十色。だから人間は面白い。
いつぞや「ケンプの『皇帝』」という随分前の記事(何と15年前!)にコメントをいただき、そこには「ケンペン指揮のモノラル録音を聞いたか」とあった。僕は聴いていなかったので、聴いてみたら、確かに質実剛健、しかも温かみのある演奏で、やはり壮年期(?)のケンプは一層素晴らしかったんだと痛感した。

世界は知らないことばかり。
必要な情報は自ずと入ってくるが、その情報も多岐にわたり、すべてを正面から享受するのが難しい時代にあって、ご丁寧にご教示いただけるコメントは本当に有難い。新たな名演奏に出会うことができ、感謝に絶えない。

ケンプの「皇帝」は確かに堂々たる風趣で素晴らしい。
おそらく1950年代の時間をかけた録音セッションと丁寧な音作りの賜物なのだろうと思う。音が生き、音楽が躍動感に満ち、第1楽章アレグロの雄渾さ、旋律の豊かさ、そして、第2楽章アダージョ・ウン・ポコ・モッソの水も滴る透明感,にも増して内から湧き上がる慈悲の心に当時のベートーヴェンの心の様子が反映されており、思わず惹き込まれてしまう。

1809年5月にヨーゼフ・ハイドンが亡くなった。
その夏、完成されたピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」は、占領下にあって初演の機会はなかなか訪れなかったという。
そして、ようやく1811年1月13日、ロプコヴィッツ侯邸の土曜日の予約演奏会でルドルフ大公の独奏で初演が行なわれた。

・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73「皇帝」
ヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
パウル・ファン・ケンペン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1953.5録音)

逸る気持ちを抑えんと、終楽章ロンド(アレグロ)が翔ける。
フルトヴェングラー時代末期のベルリン・フィルの、現代の機能美とは異なる、暗鬱ながら熱気溢れる音が、聴衆を包み、歓喜の渦に巻き込む。

ケンプのベートーヴェンへの思念が映える。見事だ。

過去記事(2009年5月23日)


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