僕が東京に出る半年前のことなので、このコンサートはテレビで観ていた。
ブルックナーの音楽に目覚めてまもない頃だったからか、あまりの素晴らしさに息を殺して静かに画面に向き合っていたことを思い出す。当時、浪人中の僕は基本的にストイックな生活をしていたので、それは束の間の息抜きの時間でもあった。
あれから40余年が経過する。
一時代前の真正のブルックナーが確かにここにある。
それは、決して過去の遺物ではなく、今でも未来へと語り継ぐことのできるほどのエネルギーに溢れている。
「あの頃は良かった」とは言いたくないが、純ドイツ風の(そういう言葉で表現していいものかどうかわからないが)、おそらくブルックナーの望んだ、完全なる再生がここにはある。
全編を通して、中庸のテンポを崩さず、とはいえ、音楽の流れは実に動的で、安心してブルックナーの音楽を堪能できるのだから素晴らしい。時間の経過がもたらす懐かしさよりも、まるで時間が止まったかのような、たった今音楽が創造されているのではないかと思えるほどの臨場感と立体的な音響がとにかく感動的だ。
・ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版1890年稿)
オイゲン・ヨッフム指揮バンベルク交響楽団(1982.9.15Live)
東京はNHKホールでのライヴ録音。
聴衆の期待感と熱気までもが見事に刻印される、緊張の舞台が伝わる名録音。個人的には2000年11月のギュンター・ヴァント最後の来日公演の期待と興奮と同質の来日公演であろうと思う。