シャルク指揮ウィーン・フィル ベートーヴェン レオノーレ序曲第3番作品72a(1928.4.13録音)

アントン・ブルックナーの交響曲の、弟子たちによる改訂は改竄版とずっと揶揄されてきた。ただ少なくとも昨今は、その行為が(むしろ師の革新的音楽に対する賞賛の意を込めてのものだったのだと)見直され、積極的にステージで演奏されるようになってきた。それはとても喜ばしいことだ。

例えば、フランツ・シャルクの改訂によるブルックナーの交響曲第5番など、肌触りや外見はまったく別の作品と化してしまっていると言っても過言ではない。しかし、シャルクが指揮したベートーヴェンの序曲を聴いてみると、指揮者としての彼が何の気も衒わない、あくまで正統派の解釈者であることがわかって興味深い。

テンポの設定は理想的、揺れもなく、インテンポで進められるその音楽は、聴いていて実に安心感がある。こういう演奏を聴くと、やはりシャルクの改訂作業に悪意があるとは到底思えず、師の、時代の先を行く(行き過ぎる)交響曲を何とか公に受け容れてもらえるよう苦心した結果としての「形」であったであろうことが容易に想像できるのである。

・ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番作品72a
フランツ・シャルク指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1928.4.13録音)

ベートーヴェンの序曲は12もあるが、その中で「レオノーレ第3」と「コリオラン」と「エグモント」が有名でもあり優れてもいる。「レオノーレ第3」は歌劇「フィデリオ」のために書いた4つの序曲のうちの一つで、ベートーヴェンの特色の最もよく発揮された傑作の一つである。レコードは数え切れないほど沢山あるが、コロムビアのワルターがウィーン・フィルハーモニーを指揮したレコードは、劇的な誇張は無いが、最も心静かに聴けるものだろう。続いて、同じコロムビアのメンゲルベルクが良い。
あらえびす「クラシック名盤楽聖物語」(河出書房新社)P102

あらえびすの評論にもシャルクのそれは言及されていない。
しかし、浪漫薫るワルターのものより一層即物的なシャルクの方がいかにも男性的で(ある意味)ベートーヴェンの解釈としては優れていると僕には思われる(実際のところ甲乙つけ難いが)。おそらくその日の気分によって音盤をとっかえひっかえするのも乙なものだろう。

フランツ・シャルク93年目の命日に(聴き比べてみていただくと一聴瞭然)。

ワルター指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン「レオノーレ序曲第3番」(1936録音)を聴いて思ふ ワルター指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン「レオノーレ序曲第3番」(1936録音)を聴いて思ふ

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