ケンプ シェリング フルニエ ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調作品97「大公」(1970.8録音)ほか

大崎滋生さんの、ルドルフ大公についての推測が興味深い。

まず、大公は決してアマチュア・ピアニストではなかった。それこそ「皇帝」は大公の初演だったであろうという分析。

現在ようやくベートーヴェン研究はルドルフに対するこの誹謗を克服しつつある。すなわち、《皇帝》の初演はルドルフ大公が行ったんだ、と事実を噛みしめているところであるから。
そのために、当然、考えられるのは、第4番のときのように、ベートーヴェンの猛烈なレッスンがあったはずと、文書証拠はまったくないが私は想定している。そして、ベートーヴェンも必死だったのではないか、と思うのである。大コンサート失敗の原因、演奏の乱れが自らの難聴に起因することは自覚していただろうから。もはや自らの独奏でのコンサートは叶わず、初演は大公に託さなければならない、したがってただのレッスンではなく、本番に向けての準備である。

大崎滋生著「史料で読み解くベートーヴェン」(春秋社)P343-344

何と驚きの説。しかも非常に説得力のある論に納得する。
ルドルフ大公には多くの名作が献呈されているという事実から鑑みて、ベートーヴェンがピアニストとしての彼に諸々を託したことは十分に考えられる。しかしその大公も1813年10月頃には手の通風を発症してピアニスト活動の引退を余儀なくされる。

1811年6月11日にルドルフ大公のピアノ独奏で初演された通称「大公」トリオ。
戦前のカザルス・トリオの録音を凌駕するものは未だないと思うが、中で、ケンプ、シェリング、フルニエ三者による録音は、常設の三重奏団として活動しないがゆえの遠心力に溢れた名演奏の一つだ。

ベートーヴェン:
・ピアノ三重奏曲第6番変ホ長調作品70-2(1808)
・ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調作品97「大公」(1811)
ヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)
ピエール・フルニエ(チェロ)(1970.8録音)

スイスはヴヴェイ、テアトル・ムニシパルでの録音。
気のせいか、ケンプのピアノが大いに主張する(特に第3楽章アンダンテ・カンタービレ,マ・ペロ・コン・モート—ポコ・ピウ・アダージョ!)。ベートーヴェンの変奏曲はどんなものでも美しいが、「大公」トリオ緩徐楽章のそれは真に絶品。そして、その美しさを助長するのが土台となるケンプのピアノなのである(ルドルフ大公のために簡潔に書かれたとするシンドラー発の説はここでも否定されよう)。続く終楽章アレグロ・モデラートの、喜びの爆発!

それにしても第1楽章アレグロ・モデラートの主題の優美な美しさにあらためて惚れ惚れする(ベートーヴェンの生み出した旋律の中で傑作の一つ)。大崎さんの推測通り、この主題がルドルフ大公のピアノによって導かれたのだと考えると身震いするほど感激だ。ここではやはりケンプにピアノがものをいう。

ケンプ ライスター フルニエ ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第4番「街の歌」(1969.8録音)ほか ケンプ、シェリング&フルニエのベートーヴェン「大公」トリオ(1970録音)を聴いて思ふ ケンプ、シェリング&フルニエのベートーヴェン「大公」トリオ(1970録音)を聴いて思ふ 3人寄れば・・・ 3人寄れば・・・

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