冷たい空気が見事に澄んだ長野の夜。
ベートーヴェンを聴いた。
文書的根拠がない中、大崎滋生さんは「皇帝」初演にまつわる大胆な推測をされている。
実際のところは、被献呈者であるルドルフ大公がピアノ独奏を受け持ったというのである。
あくまで「文書的証拠」がないだけで、さすがに現代のベートーヴェン研究の第一人者だけある、おそらく9割以上の確率でそうだろうと大崎さんは見込んでいるのだと思う。
1811年11月28日が「皇帝」の公開初演の日とされるが、この難曲を素人が弾きこなせたのかどうか?
しかし、アマチュアとはいえ類い稀なる音楽的素養を具えていたルドルフ大公にあって、ベートーヴェンによる猛烈なレッスンをこなせば確かに何とかなったのではなかろうか。
(真実は永遠にわからないが)
かれこれ45年前、高校生の頃、アナログ輸入盤が擦り切れるほど繰り返し聴いたのは、エトヴィン・フィッシャーがフルトヴェングラーの伴奏で録音したEMI盤だった。
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73「皇帝」
エトヴィン・フィッシャー(ピアノ)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団(1951.2録音)
ほど良いテンポでありながら、雄渾なエネルギーに溢れる第1楽章アレグロからフィッシャーはフルトヴェングラーと丁々発止のぶつかりによる音楽的調和を醸す。
癒しの第2楽章アダージョ・ウン・ポコ・モッソはフィッシャーの独壇場!
(何という美しさ! 全曲の白眉!)
そして、アタッカで奏される終楽章ロンド(アレグロ)の喜びよ。