あうんの呼吸

昨日、夜遅くにテレビをつけるとNHK教育「芸術劇場」で、The Five Brownsという5人の兄弟姉妹によるピアノ・アンサンブルの特集をやっていた。グリーグの「ペール・ギュント」からの楽曲やガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」、ストラヴィンスキーの「火の鳥」フィナーレなど、一糸乱れぬアンサンブルで見事な演奏を披露していた。僕はプレイヤーではないので、その難易度を体感的に知っているわけではないのだが、ピアニストの友人に聞いてみると、5人でぴったりと合わせて弾き切ることは並大抵の技量ではないらしい。それと、技術の問題は当然のこととして、所謂「あうんの呼吸」は抜群で、やはり幼年期を共にした血のつながった兄弟でないとありえないことなのかもしれない。

一方、今朝の朝日新聞朝刊では、中国のいわゆる「一人っ子政策」が曲がり角に来ているという記事。「一人っ子政策」とは、ご存知のように、人口急増を受けて毛沢東没後に始まった「計画生育」と呼ばれる出産制限政策のことをいうのだが、殺人まがいの強制中絶などが蔓延り、異例の訴訟にまで発展しているという。

確かに中国政府からみてみると人口問題は究極の環境問題ともいえ、現実を考えると、その政策も全面的に否定できるものではない。しかしながら、僕自身これまで何千人という若者を対象にキャリア・カウンセリングやアドバイスを個別で行ってきて、子どもの頃に同世代の子たちと十分にコミュニケーションをとる(時には「殴り合いに及ぶ喧嘩をする」ということも含めて)ことは、その後の人生を左右するという意味でとても重要なことで、その点、兄弟姉妹の有無は大きな関係要因であることは間違いなく、一概に出産を規制するのもどうかとも考えるのである。上記の兄弟ピアノ・アンサンブルも、おそらく子どもの頃から音楽的な面での議論はもちろんのこと、日常的にも時には大喧嘩をし、そしてまた仲直りをし、などと繰り返しながら成長し、同時に音楽的素養をも育んできたはずだから、余計にそういうふうに感じてしまうのかもしれない。

韓国の生んだ世界屈指の姉弟トリオ、チョン・トリオを聴く。指揮者である末弟のミュンフン氏は東京フィルの音楽監督であるゆえ、頻繁にコンサート告知で見かけるのだが、次姉のキョンファ氏は最近どうしているのだろう?しばらく前までは頻繁に活動していたと思うのだが・・・。久しぶりに生演奏を聴きたいものである。

チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲イ短調作品50「ある偉大な芸術家の思い出」
チョン・トリオ

トリオとしての活動の中で、残した音盤はそう多くない。中でも最高傑作は、このチャイコフスキーのトリオ。本当に切なく感動的だ。以前とりあげたマイスキー、クレーメル、アルゲリッチによる演奏も美しかった。しかしながら、3者ともヴィルトゥオーゾとはいえ他人。上記トリオは同じ両親の下に産まれた姉弟。絶妙なる「あうんの呼吸」によりチャイコフスキーの咽び泣く哀感を伴う内燃するパッションを奥底に秘めた絶美の演奏が繰り広げられる。

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