精密なるスイス製時計

あっちの部屋ではストラヴィンスキー「春の祭典」のいろんな指揮者(コリン・デイヴィス盤バーンスタイン盤デュトワ盤小澤盤、ゲルギエフ盤、そして、アシュケナージの2台ピアノ盤)の演奏が大音量でかかり、一方こっちの部屋ではラヴェルの「ダフニスとクロエ」が遠慮がちに響く。何だかバレエ・リュスの大会みたいな様相。同居人が秋の2台ピアノ版自主公演に向けて楽譜を広げながら「おさらい」をしているのだと。
今日も外は暑い一日。「春の祭典」は「暑苦しさ」の権化のような楽曲だが、「ダフニス」はとても涼しい音楽である。ヴォカリーズ風の女声合唱を聴いているだけで大変に気持ちよい。ストラヴィンスキー曰く「モーリス・ラヴェルの芸術は、スイス製時計のように精密だ」ということらしいが、なるほどと頷かされるほど見事な音響である。

ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲
アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団
ルネ・デュクロ合唱団

ラヴェルといえば「ボレロ」。「ボレロ」といえばジョルジュ・ドン、というのが定番か。ピアノ協奏曲という洒落た音楽もそういや彼は書いている。「亡き王女のためのパヴァーヌ」という感動的なピアノ音楽もそうだ。「展覧会の絵」のオーケストレーションもラヴェル。確かに天才的な「音の職人」である。
しかし、ひょっとすると彼の最高傑作は「ダフニスとクロエ」なのかもしれないとふと考えてしまう。そんな風に感じさせてくれる音盤、それは、今は亡き巨匠アンドレ・クリュイタンスの指揮による最高の遺産でもある。1967年に亡くなっているから64年生まれの僕は実演を知らないし、聴くチャンスもなかった。65年に一度来日しているらしいが、相当な美演だったらしい。生を聴いてみたかった。

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