ベートーヴェンの作品110

この6月に「早わかりクラシック音楽講座」のコンサート・シリーズ第2弾として、愛知とし子によるピアノ・リサイタルを開催する(少しばかり僕もお話をさせていただく予定)。シリーズ第1回のベートーヴェンの作品111に続き作品110がメイン・プログラムとして登場する予定なのだが、今からとても楽しみ。未曽有の震災を前に、イベントの自粛が相次ぎ、「赤ちゃんのための音浴じかん」もどうなることやらと肝を冷やしたが、先の心配をしても仕方なしということで、年齢の幅を広げファミリーコンサートとして開催することにもしたし、音楽家は音楽を通じて人々に癒しを与えることが使命ゆえ、いずれにせよ頑張っていただくことにした(笑)。今回の非常事態のお陰で、いろいろと考えさせられ、「原点回帰」という文字が降って降りて来たようで、ともかく余計なものを削ぎ落とし、愛する音楽で勝負しようと愛知とし子は決心したよう。よろしい。

突然、ピアノ室から作品110の第1楽章第1主題が流れてきた。いよいよ練習が始まったみたい。被災者に捧げる祈りのようなベートーヴェン晩年の箴言。人がひとつになるのに一歳の言葉は不要。この気高い人類の至宝に耳を澄ますだけで幸せになれるというもの。

それに刺激を受けたわけではないが、久しぶりに晩年のゼルキンのコンサート映像を観た。最後の3つのソナタがプログラムのウィーン・コンツェルトハウスでのライブ映像。

ベートーヴェン:
・ピアノ・ソナタ第30番ホ長調作品109
・ピアノ・ソナタ第31番変イ長調作品110
・ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111
ルドルフ・ゼルキン(ピアノ)(1987.10Live)

一切の無駄な力が排された抜け切った理想的な名演奏。楽聖の晩年の孤高の境地というのを表現するには相応の年齢を重ねないとやっぱり無理なのか・・・。とはいえ、先般の愛知による作品111は大変に素晴らしかったし、年齢や経験を超える「パッション」や「思考」を受け容れるだけの許容量がこれらの音楽にはあるようにも僕には思える。

ゆえに、おそらく誰が演奏しようとも、もしも実演で聴いたならものすごく感動できるだろう、そんな風にここのところは思えるようになった。偉大なる名曲に挑戦しようとするピアニストは皆素晴らしい。その勇気とチャレンジ精神にそもそも乾杯。

それにしても作品110の主題は天使が舞い降りるようで涙が出るほど美しい。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。

ベートーヴェンについては、ちょっと前にインド哲学からの影響について話題にしましたが、
彼の思想・教養については興味が尽きなく、益々研究したくなってきています。

・・・・・・ベートーヴェンはカトリックであったが敬虔なキリスト教徒とはいえなかった。『ミサ・ソレムニス』の作曲においてさえも「キリストなどただの磔(はりつけ)にされたユダヤ人に過ぎない」と発言した。ホメロスやプラトンなどの古代ギリシア思想に共感し、バガヴァッド・ギーターを読み込むなどしてインド哲学に近づき、ゲーテやシラーなどの教養人にも見られる異端とされる汎神論的な考えを持つに至った。彼の未完に終わった交響曲第10番においては、キリスト教世界と、ギリシア的世界との融合を目標にしていたとされる。これはゲーテが『ファウスト』第2部で試みたことであったが、ベートーヴェンの生存中は第1部のみが発表され、第2部はベートーヴェンの死後に発表された。権威にとらわれない宗教観が、『ミサ・ソレムニス』や交響曲第9番につながった。
また、同時代のロマン派を代表する芸術家E.T.A.ホフマンは、ベートーヴェンの芸術を褒め称え、自分たちロマン派の陣営に引き入れようとしたが、ベートーヴェンは当時のロマン派の、形式的な統一感を無視した、感傷性と感情表現に代表される美学からは距離を置いた。ベートーヴェンが注目したものは、同時代の文学ではゲーテやシラー、また古くはウィリアム・シェイクスピアらのものであり、本業の音楽ではバッハ、ヘンデルやモーツァルトなどから影響を受けた。また哲学者カントの思想に接近し、カントの講義に出席する事も企画していたといわれ、カントの美学をベートーヴェンは体現したともいわれる。
政治思想的には自由主義者であり、リベラルで進歩的な政治思想を持っていた。このことを隠さなかったためメッテルニヒのウィーン体制では反体制分子と見られた。
その他にも、天文学についての書物を深く読み込んでおり、彼はボン大学での聴講生としての受講やヴェーゲナー家での教育を受けた以外正規な教育は受けていないにも関わらず、当時においてかなりの教養人であった。・・・・・・ウィキペディアより

今読んでおりますのは、
上村 勝彦 (訳)   バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%90%E3%82%AC%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%87%E5%BA%AB-%E4%B8%8A%E6%9D%91-%E5%8B%9D%E5%BD%A6/dp/4003206819

ベートーヴェン後期作品には東洋思想からの影響があるという確信が、これを読んでいても深まるばかりです(なお、この本は、ベートーヴェンのことを離れてもお薦めしたいです)。

それと、彼が天文学に強い関心があったのも、ちょっと気になっていることがあります(また後日に・・・)。

愛知とし子さんによる作品110は、今回も当然、最高の名演奏が期待できますね!
何とか、また都合をつけて、東京まで聴きに伺いたいものです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
ベートーヴェンについては僕も真面目に深く追究したいと思っておりました。
ここのところのバタバタでご紹介いただいた書籍が読めていなかったので、この際「ギーター」とあわせて読んでみます。誰がつけたか「楽聖」という冠が的を射ているようで気になります。彼は決して聖人ではなかったと思いますが、明らかに晩年は悟っていたんじゃないかと思えるからです。
またゆっくりお話したいですね。
6月の東京公演はぜひまたお出かけください(毎々遠距離にも関わらずありがとうございます)。ちなみに6月25日(土)19:00~杉並のSKホールというこじんまりとしたホールでの開催です。詳細はあらためてお知らせさせていただきます。

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