音の恋文

今日は英国の作曲家、サー・エドワード・エルガーの150回目の誕生日である。
エルガーといえば「威風堂々」が夙に有名だが、愛らしい小品「愛の挨拶」を聴く。
チョン・キョン=ファ(ヴァイオリン)、フィリップ・モル(ピアノ)

この曲は旋律も綺麗で親しみやすく、誰もが一度は聴いたことのある曲だろう。その字の如く、1890年、娘が生まれた年にエルガーが妻のキャロラインに「愛と感謝」の気持ちを込め贈物にした「音の恋文」なのである。電子メールはもちろん電話すらまだ存在しなかった時代。「想い」を伝える手段が「手紙」か「直接会って」という時代のこと。ワーグナーは妻コジマに「ジークフリート牧歌」を、マーラーは妻アルマに「アダージェット」を贈っている。いずれも感動的な美しい曲である。それにしても、「愛や感謝の念」を曲に込めて贈られた女性の感動はいかばかりのものだったろうか。自分にそんな才能があったらと思うが、そこは天才と凡人の差。どうしようもない。せめて、エルガーの創作したこの曲を愛する大切な人にプレゼントしよう。

ところで、チョン・キョン=ファは韓国で生まれ育った天才ヴァイオリニスト。指揮者のチョン・ミュン=フンは実弟である。最近コンサートはおろかレコーディングも含め音沙汰がないのはどういうことなのだろう。かつてその何かが乗り移ったかのような演奏スタイルは「巫女」のようと表現され、会場にいあわせる聴衆を感動の渦に巻き込んだ彼女も結婚して母親になって以来ガラッと変化し、随分大人しくなった。僕は98年と01年のリサイタルを聴いているが、いずれも空前絶後の感動的な名演奏であった。言葉を変えると、「大人しく」なったのではなく「余裕を獲得した巫女」となって我々の前に姿を見せたとでも言うのか。

2001年の公演ではヴィヴァルディの四季やバッハの無伴奏パルティータ第2番が舞台にかけられた。ただし、サントリーホールに空席が随分目立ったことを記憶している・・・。

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