帝王マイルス・デイヴィスが初めてパリを訪れたのが1949年だから、23歳の時。パリは昔からエキゾティズム信仰がどこよりも強かったようで、黒人ジャズメンは相当にもてたらしい(かく言うマイルスもジュリエット・グレコと、ほとんどワン・ナイト・ラヴに近い恋に落ちたことを初めて知って驚いた)。
僕はこれまでフランスの地に足を踏み入れたことが1度しかない。それもどこかの国へのトランスファーの関係で一泊せざるを得なかったという極めて後ろ向きな理由で、確かパリのエッフェル塔の近くのホテルに身を寄せたというものである(マイルスの訪仏から数えてちょうど40年後、僕は25歳)。知人がいたので豪華ないわゆるフランス料理ではなく、地元の庶民が訪れる家庭料理のお店に連れて行ってもらって舌鼓を打ったこと、食後に「ソルベ」を薦められて食べたこと、そしてそれらがとっても美味しかったことだけを不思議に覚えている。もう20年以上前の話である。
当時の僕がヨーロッパに行く理由はたったひとつ。そう、音楽である。西洋クラシック音楽にかぶれてからウィーンやドイツという国は僕にとって大いに憧れの地だった。1989年に初めてウィーンを訪れた時の感動、そしてだいぶ遅れて2002年に初めてドイツに足を踏み入れた時の感激、いずれも忘れられない経験なのだが、フランス音楽にはそれほど愛着を持っていなかったからか(少なくとも当時は)、パリという芸術家ならだれもが憧憬の目で見る街に興味を持てなかったというのが、残念ながらフランスを軽視していた理由である。
ところが、年をとるにつれフォーレやラヴェル、あるいはドビュッシーらの音楽を少しずつ耳にする機会が増え、ある日突如開眼してからは20世紀初頭のストラヴィンスキーやディアギレフ、件の印象派作曲家たちが闊歩したであろうその街についてもっともっと知りたくなったものの、いかんせん行く機会に恵まれず今日まできてしまった。
ウィーンやザルツブルク、あるいはプラハやベルリンといった街とはまた違った魅力を持つパリ。確かに、音楽に限らず文学、絵画、あるいは食、どんな芸術的分野においてもニューヨークとはまた違った意味で前衛的で挑戦的、そしてモダンな匂いのする場所。フランス物には知識の浅い僕だが、その頃から「こいつは何者だ?!」と音盤を聴いては卒倒するほどの感銘を受けていたアーティストがいる。セルジュ・ゲーンズブールその人。何人もの女性と浮名を馳せ、酒とドラッグと女と・・・、そういう放蕩人生を謳歌した男の中の男(笑)。果たして肉体関係があったのかどうかまでは詳細に調べていないのでわからないが、妻であったジェーン・バーキンとのものはもちろんのこと、ブリジット・バルドー、カトリーヌ・ドヌーヴらとのデュエット曲はいずれもが大変な名曲で、尋常じゃない艶っぽさと男女の交配(?笑)のリアル感が見事に堪能できる。
20年前にリリースされた2枚組のベスト盤。
Jane Birkinとのデュエット曲”La décadanse”・・・
その歌詞はいきなり・・・、
Tourne-toi(回って)
-Non(-いや)
-Contre moi(-俺にぴったりくっついて)
-Non, pas comm’ça(-いや、こういうのはいや)
-…Et danse(-・・・ほら踊ろう)
La décadanse(デカダンス、退廃のダンス)
1971年のリリースだからちょうど40年前のこと。いやはや、何とも。これが放送禁止にならなかったのが不思議なくらい。ぞくぞくするような低く太い退廃的なゲーンズブールの声質に対してバーキンの甲高いある種ヒステリックな声が奏でる二重唱。堪らない。
ショパンの「別れの曲」をアレンジした娘のシャルロットとのデュエット”Lemon Incest”も最高!
おはようございます。
先日の、
>菊地+大谷の「マイルス研究」を読み始めているが、最高に面白い。スピリチュアル系の書籍などと並行して読むとその面白さが一層倍加する。マイルスの生き方は、そして音楽は「精神世界」と直通だなと。
http://classic.opus-3.net/blog/?p=7981#more-7981
についてなんですが、スピリチュアル体験は、ドラッグでのトリップ体験と紙一重の脳内作用ですよね。
人間、究極の「いける」「いっちゃう」浮遊体験は、セックス、ドラッグ、宗教(スピリチュアル)でエクスタシーするのが一番なんでしょう。よく「お花畑」が見えたりしますよね(笑)。そこからアートのインスピレーションは生まれる・・・。
パリの色彩感と、セックス、ドラッグが重なり合った時、ご紹介の名盤が生まれたのかも。
これについては、私も愛聴しています。いいですねぇ!!
セックス、ドラッグ、酒、( )、
♪ これじゃ身体にいいわきゃないよ。
分かっちゃいるけど、止められない。
ほれスイスイスーダララッタ、スラスラスイスイスイ ♪
http://www.youtube.com/watch?v=bQPDQzhzaOw
>雅之様
おはようございます。
>人間、究極の「いける」「いっちゃう」浮遊体験は、セックス、ドラッグ、宗教(スピリチュアル)でエクスタシーするのが一番なんでしょう。
そういうことでしょうね。凡人にはなかなか踏み込めない世界ですが(笑)。
それにしても「スーダラ節」いいですねぇ。クレージーキャッツは天才です!
>凡人にはなかなか踏み込めない世界ですが(笑)。
どう考えても岡本さんは非凡です。いけます。いっちゃってます。
>雅之様
何をおっしゃいますやら!!(笑)