時よとまれ、お前は美しい!

爽快な疾走感を味わいたい時、僕はチック・コリアを聴く。高速道路で猛烈なスピードを出すより、バイクで風を切って走るより何ともリアルな緊張感と気持ち良さで満たされる。アドレナリン出まくり・・・。チックの場合、ソロでもトリオでも、あるいはアコースティックでもエレクトリックでも音楽的語法の根底に流れるものは同じで、ラテン風のネアカな調子と洗練された都会的センスが交互に現れ、そこにいかにも万人受けしそうなメロディが被さってくるものだから、音楽好きならどんな人でも一聴虜になる要素を持っている(ように僕は思う)。それは、ビル・エヴァンスのすべてを包み込むような抒情性とは異質なもので、またキース・ジャレットの濃厚な官能性とも違う、先鋭的で未来的でありながら、いつどんな時に耳にしても今この瞬間に生まれ出ているような錯覚を覚えさせてくれる強いて言うなら感情を一切排除した中性的な音楽である(もちろんハービー・ハンコックの、ブラックでファンキーな側面と清楚で穏やかな側面という二面性を持つ様相とも明らかに違う)。

永遠を感じさせてくれる音楽たち。特に、初期のアコースティック作品を聴くと、足し算も引き算もいらない完成度に圧倒される。ロマンチックでメロディアスでありながら、前衛的な側面も負けじと顔を出す。そう、かつてショパンが葬送ソナタで表現したような、従来の方法論に従いながら果敢にチャレンジをし、そこに新たな独自性を付加する手法。マイルスからエレキ・ピアノを弾くよう命じられた時、相当な抵抗を見せたようだが時を経ずして自分のものにし、それをそのままバンドに適応、リターン・トゥ・フォーエバーにつなげてゆくという技量はやっぱり只者ではない。

Chick Corea:Now He Sings Now He Sobs(1968.3.14&19録音)

Personnel
Chick Corea(piano)
Miroslav Vitous(bass)
Roy Haynes(drums)

1曲目”Steps – What Was”は14分弱という大曲。ドラム・ソロあり、ベース・ソロあり、極めてバランスが取れ、調和性豊かな音楽が鳴り続ける。タイトル曲”Now He Sings – Now He Sobs”の静かなる挑発!あるいはラストの”The Law Of Falling And Catching Up”のアバンギャルド!(まるでプリペアード・ピアノを扱っているよう!楽想はKing Crimsonのファースト・アルバムの”Moon Child”後半部を想起させるもの。素敵だ)

ところで、ジャズの場合、それがいつ録音された作品なのかというデータは極めて重要だと僕は思う。生まれた時代の空気感を想像しながら、一方で音楽の時空を超越している「乖離感」を楽しみながら聴くのが何より面白い。60年代&70年代ロック音楽の多くが古びた感が否めないのに、マイルスやチック、あるいはハービーなどが創出するジャズなる音楽には常に強烈な新しさが存在する。

時がみるみる過ぎ去る。それでも何も、誰も変わることはない。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
こんばんは。

>ジャズの場合、それがいつ録音された作品なのかというデータは極めて重要だと僕は思う。

そりゃ、ジャズだけに限らないでしょ。あらゆる音楽やアートが、その時代に生きた人たちの生活と不可分に結び付いているのですから。

「ミュージッキング——音楽は〈行為〉である」
クリストファー・スモール 著
野澤豊一+西島千尋 訳 水声社

音楽は、《作品》ではない、《実践》なのだ!
音楽を愛するすべてのひとの必読書。

musicking/[mjúːzikiŋ]/名/to music(音楽する)の動名詞形。
各自の立場を問わずに音楽的なパフォーマンスに加わること。演奏者やリスナー、ダンサーから、ローディー、チケットの売り子や清掃係などの裏方まで、その場に集うすべての者が《音楽》に参加し、《音楽》を共有し、《音楽》に貢献している、という考え。クリストファー・スモールによって提唱され、本書のタイトルとなり、世界各国で多くの読者を得ている。

http://www.suiseisha.net/blog/?p=1884

この本、通勤途中に読み始めていますが、じつに面白く、クリストファー・スモールの提唱、納得させられることばかりです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>そりゃ、ジャズだけに限らないでしょ。あらゆる音楽やアートが、その時代に生きた人たちの生活と不可分に結び付いているのですから。

失礼しました!言葉足らずでした・・・(苦笑)。
「ミュージッキング」面白そうですね。読んでみます。

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