昔のように気に入った音盤、音楽を徹底的に聴き込み、心底その作曲家や演奏家に心酔するということがなくなってしまった。若い頃は聴くもの全てが新鮮で、新しい知識を身につけようと必死で音楽を聴き、作曲家に関する文献を読み漁った。まだインターネットなどない時代。今ほどレコードの発売点数も多くなく、情報源といえば、月に一度書店に並ぶ「レコード芸術」などのレコード情報誌くらい。その「レコード芸術」もすでに30年近く愛読書として毎月購入しているものの、最近はざっと目を通すくらいで、隅から隅まで熟読し、欲しい音盤をチェックしたり、連載読み物を楽しみに読むということもなくなった。内容自体が面白くなくなったのか、僕自身がそういう情報に対して貪欲でなくなったのかそれはわからない。ただ昔ほどさほど食指も動かないし、発売されるのを楽しみに待つということもなくなったことは間違いない事実。惰性で買い続けているという寂しい状態といえば状態・・・。
高校生の頃は欲しいレコードがたくさんあった。今は、CDショップに足を運んでも、どうしても欲しいと思わせる音盤に出逢うことは稀になった。音楽を聴く行為がマンネリ化しているわけではないが、新鮮な感動を味わうことが少なくなったことは明らか。感性が鈍ったのか、聴き方が甘いのか・・・。感性が鈍ったということはなかろう。いや、「知ったこと」で逆に感動が少なくなったということもあるのかもしれない。聴き方が甘いのはその通り。昔は、ステレオ装置の前にドンと構えて、2時間でも3時間でも独り集中して傾聴する時間をもっていた。今は普段はどちらかというと仕事をしながらの「ながら聴き」が主。あえてそれだけの時間をとってじっくりと聴こうという姿勢も残念ながら萎えてしまっている。ただし、「クラシック音楽講座」を主宰しているおかげで、必然的に作曲家の人となりを勉強せざるを得ない状況に置かれているということと、少なくとも1ヶ月に一度は大音量で皆で音楽を楽しむという時間がとれるということはある意味幸運かも。「やらなければならない」状況に自分を置くことって大事だ。
本日、中央道を走る高速バスに揺られながら、ゆったりと帰京。日本アルプスの雪混じりの景色を眺め、雲の笠を貫く富士の絶景に心を動かされ、3度の休憩を挟んで5時間ほどの旅。「レコード芸術」2月号を斜め読みし、次回の講座のテーマであるシューマンについての書籍をざっと読み、前述のような思いに耽る。
音楽というのは生き物である。そして、その音楽を創造したその人のその時の「想い」や「意識」が明らかに投影される。じっくり文献を読み、その人に想いを馳せ、CDによってその音楽を聴き、そして、コンサートホールで実演に触れ、演奏者と作曲家を「感じる」。かつての音楽に対する新鮮な想いを忘れたくない。一枚一枚の音盤を大切に。人と音楽に向かう時間を大切に。
ブラームス:交響曲第2番ニ長調作品73
ピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団
遅筆で有名なブラームスがわずか4ヶ月余りで書き上げた傑作交響曲。長閑さ、静けさ、明るさ。強面で気難しいブラームスのイメージを払拭する暖かく「愛」に満ちた音楽。そして、真っ直ぐで情熱的な感情をあわせもち、自然とひとつになるかのような感覚を呼び覚ましてくれる。老練の巨匠の棒による余裕のパフォーマンスが輪をかけ、愛を語りかける。
写真は、1月25日(日)、富士川PAから撮った富士山。
雲ひとつない青空と富士山頂の雪のコントラストが美しい。
おはようございます。
ブラームスの2番は、私の最も好きな交響曲のひとつなのにも拘らず、昔から名盤が少ないです。ご紹介の盤は、この曲の数少ない納得できる名盤ですね。
この曲、真にいい演奏でのライヴでの終楽章の高揚感は、セッション録音では中々出せないんだと思います。例えばカール・ベームも、70年代後半のベルリンフィルとのザルツブルク音楽祭では空前絶後の名演があり(CD化されないかなあ)、当時FMで聴いて凄い乗りのよさに感動したことがありますが、ウィーンフィルとのセッション録音では、別人のように大人しくて、全く物足りませんでした。なお、私がこの曲の生演奏を聴いて最も感動したのは、意外なことにマゼール&バイエルン放送響の来日公演でした(マゼールも、CDや映像と、録画・録音の入っていない日のライヴでは、全く違う演奏をする指揮者です)。
大昔の学生時代、ブラ2とシベリウスの交響曲第6番他の演目の定期演奏会で弾いたことがあります。今まで参加したコンサートで最高の曲目の組み合わせだったと、今でも思います。
※富士山、美しいですね!山梨側と見比べて、どうでしたか?
>雅之様
おはようございます。先日お会いした時にはからずもブラ2の話になりましたね。実際に演奏されている雅之さんのご意見は貴重です。
ベームのザルツブルクライブ聴いてみたいですねぇ。ひょっとしてエアチェック・テープお持ちなんですか?おっしゃるとおり、終楽章の高揚感を押し出せている演奏にはなかなか出逢えません。それにしてもマゼールですか!?意外です。
富士山美しかったですね。山梨側と比べて・・・・、うーん、甲乙つけがたいです。静かでどっしりと雄大な佇まいの山梨側に対して、開放的で動きのある静岡側。見る方向が違うと与える印象も変わりますが、いずれも富士山なんですよね。