孤独の影

来月24日(土)に八王子市の市民自由講座「クラシック音楽入門講座&ミニコンサート」に出講するのだが、その下見と打ち合わせのため生涯学習センタークリエイトホールを訪れた。200人超のホールで既に200名ほどの申し込みがあるという。市としてもクラシック音楽講座の開催は初めてだそうで、墨田区でも来季(第2期)の開催がほぼ決定しているので相応のニーズがあるということなのだろう。反応が良ければ継続的に依頼したいというお言葉をいただいたので心なしか気合いが入る。
それにしても音楽の専門的な勉強を一切していない僕がクラシック音楽講座なるもので他人様にクラシック音楽を教えるのだから不思議なものである。ちょうど5年前にある後輩から教えてくれと頼まれて言われるままに始めたのが最初でそのままだらだらと定期開催になったのだから人生どこで何がどうなるのか皆目見当がつかない(笑)。
ただ一つ言えるのは、好きなことは継続していれば必ず人に影響を与えるだけのものになるということ。好きこそものの上手なれである。

ということで、どんな内容にするかはもう少し近づいてから思案することにする。
できるだけ映像を観ていただいて、ひとりでも多くの方に興味を持っていただけるように。

先日、ついつい手に取ってしまった本、「宇野功芳編集長の本・没後50年記念ブルーノ・ワルター」。この手のものはもういいかなと思っていたが、見たらもうどうにもこうに・・・(苦笑)。宇野先生はもちろんのこと評論家や作家たちが競うようにワルターについての思いを文章にされており、なかなか読み応えがある。擦り切れるほど聴いたワルターの様々な音盤に思いを馳せながら、古き良き昔を懐かしみ、隅々まで読破するのは実に楽しい。

例えば、皆川達夫先生が寄稿されている「ニューヨークで聴いたブルーノ・ワルター」。

とくに感銘ふかかったのは、モーツァルトの「レクイエム」です。2回か3回か連続して開催された「レクイエム」演奏会に、貧乏留学生の分際で、「これだけは是非」と一階正面席の切符を手に連日通いつづけました。・・・(中略)・・・そのワルターの指揮には、後の世代の指揮者たちがみせたような大袈裟な思い入れなど一切ありません。なにかを期待させるような意味ありげな仕草、劇的なゼスチャー、さも陶酔しているかに目をつぶったり、いわんや指揮台で飛び上がるようなことなどまったくありえず、ただただ淡々と穏やかな指揮ぶりです。大きなクライマックスにいたっても、熱することも激することも極端に大振りすることもなく、それでいて間違いなくfが鳴りわたります。しかも、その猫背の背中には言いしれぬ孤独の影が刻みこまれていました。

これを見て、ワルターの「レクイエム」が聴きたくなってウィーン・フィルとのSP復刻盤をかけてみたが何か違う。ニューヨーク・フィルとのスタジオ録音盤、あるいはザルツブルク音楽祭の実況盤に代えようとも思ったが、あえてモーツァルトのシンフォニーにしてみた。50年代のニューヨーク・フィルとの脂の乗り切った名盤。もはやこれまでに知り尽くした楽曲の聴き尽くした音盤だが、ここにはまさに皆川先生の言う「言いしれぬ孤独の影」が明滅する。

モーツァルト:
・交響曲第39番変ホ長調K.543(1953.12.21&1956.3.5録音)
・交響曲第40番ト短調K.550(1953.2.23録音)
・交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」(1956.3.5録音)
ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団

「淡々と穏やかに」・・・、80歳のワルターの一切の虚飾を排した「脱力的演奏」が聴く者に与えるのはただ「感動」のみ。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。

悪い!岡本さん。私はどうしてもワルターのモーツァルトの良さがいまいちよくわからないのです。根っからのベーム派なので・・・。

そこで、日頃の愛聴盤、ワルターの望郷の想いをひしひしと感じる「新世界」を対抗に・・・。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3875780

「ワルターのモーツァルトを聴いて何も心を動かされないなら、その人の心は木石に等しいだろう」とか何とか、大昔、志鳥栄八郎さんはおっしゃっていましたが、その「木石」とは何を隠そうこの私です(木も石も趣味で大好きだしね・・・笑)。

だけど、ワルターのモーツァルトは甘口だよなあ。「三丁目の夕日」的モーツァルト?
だけど、もっとワイルド・サイド、ダーク・サイドなワルターも聴きたいな(笑)。

好みはあるにせよ、歯切れが悪いのは、やっぱり実演を聴いたかどうかの差が決定的なのかな?
いや、録音でもベームのほうが圧倒的に好き。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ワルターはやっぱり女性性が強いんでしょうね。
しかしながら、30年代のニューヨーク盤は男性性も前面に出てバランスが良いように思うのですが。
一方、ベームは完全な「男」です(笑)。
雅之さんは「男」なんでしょうね。ちなみに僕は「中性」です(爆笑)。

志鳥さん、そこまでおっしゃってましたか!!「木石」とは!(笑)

>もっとワイルド・サイド、ダーク・サイドなワルターも聴きたいな

有名なメトとの「ドン・ジョヴァンニ」あたりは暗黒面にいってると思いますが・・・。
あ、あと「新世界」懐かしいです。アナログでよく聴きました。平林復刻盤は未聴です。

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