アレクサンドル・メルニコフ ピアノ・リサイタル

敢えて一言で書くなら「衝撃的」、そんな月並みな言葉しか思いつかないひと時だった。
リサイタルそのものはとにかく淡々と時を刻み進められてゆく。2回の休憩を挟む3部構成で、気がついたら幕を下ろしていた、そんな地味だけれども鮮烈な印象を僕に与えてくれた。それは終演後の、徐々に盛り上がる聴衆のスタンディング・オベイションと鳴り止まない拍手喝采をみても歴然。アレクサンドル・メルニコフ。まだ30代後半の青年(?)が成し遂げた偉業を、感動を内々に抱きながらどこか冷めた目でその光景をみる僕自身がいた。

ショスタコーヴィチはピアニストとしても超一流の技量を持つ。彼の音楽を創造する道具(あるいは思考)としての手段はおそらくピアノだろうが、残された作品の主流はピアノよりもシンフォニーやカルテットというベートーヴェンを意識したもの。そこにはマーラーやブルックナーの影もあるかもしれない。創作したピアノ音楽が決して多いとは言えないショスタコだが、本日、初めて「24の前奏曲とフーガ」の実演に触れてみて、なるほどこの曲集の中には、まるでオルゴールかトイ・ピアノではないのかと思わせるような室内楽的な音楽もあれば、極めてシンフォニックで、どう考えても1台のピアノで演奏しているとは思えない大作品が林立し、その対比が見事に上手に並べられていることをあらためて発見し、心底感激した。

それに、ピアニストの体力面の問題もあるのだろうが、3部制になっていたことも「なるほど」と納得した。第1部が第1番ハ長調から第12番嬰ト短調という、いわゆる全曲の前半を一気に。そして、第2部が第13番嬰ヘ長調から第16番変ロ短調の4曲を。最後の第3部が第17番変イ長調からラストの第24番ニ短調という流れ。そう、番号順である。それをいとも簡単に難なく弾ききるアレクサンドル・メルニコフの精神面・肉体面双方の強靭さを褒め称えたい。と同時に、そこには神が宿るのではという瞬間が幾度もあった。今回僕が全曲を通して聴いた印象では、第2部がクライマックスを成す。この4曲の変幻自在さと、西洋古典音楽のイディオムの全てが含まれているのではないかと言っても過言でないほど、わずか30分超の時間にショスタコーヴィチとメルニコフの芸術が集約されていた。もちろん、終曲の2重フーガのとんでもない技巧的迫力の前には畏れ多くも跪くしかないのだが、それでも僕にとっては第2部が圧巻だった。

アレクサンドル・メルニコフ ピアノ・リサイタル
2012年2月26日(日)13:00開演
浜離宮朝日ホール

ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ作品87(全曲)

実は休憩になるごとにFacebook上でつぶやいたのだが、第1部終了時点では「第1部終了。第1番から第12番まで。ショスタコーヴィチが乗り移っとるがな。」、第2部終了時には「第13番から第16番まで。小宇宙と大宇宙がひとつに。ミラクルじゃ。」、そして第3部が終わった後は茫然と「第3部終わり。圧巻だったわ。」と。
うーむ、思い出すだけで震える・・・(笑)。第14番の最初の低音の一撃。その後の静謐なフーガの戯れ。”We wish you a merry Xmas”第15番のおどけたダンスはフーガとあわせいかに難曲かというのが目の当たりにできた。

これ以上言葉にするのは止そう。ただただ感動に浸るのみ。

最後にパンフレットから引用。アレクサンドル・メルニコフは次のように語る。
「作品87を通して、我々は苦しみ抜いた人間の声を聞くということ。あるがままの人生―多様で、醜悪で、それでも時には美しくもあった人生と向き合うために、繰り返し、超人的な能力を発揮した人間の声を聞くということだ。」

そう、ショスタコーヴィチは神ではなく、「人間」なのである。そのことが今日のリサイタルでよくわかった。

メルニコフの音盤を今一度聴いているが(第13番以降)、やっぱり録音には入り切っていない・・・。


6 COMMENTS

雅之

こんばんは。

やったあ!!! 
素晴らしいリサイタルで良かったですねえ\(^▽^)/!!
また歴史の目撃者になれましたね(笑)。羨ましい限りです。

今回は、行けなかった私が付け加えることは何もないです(笑)。

パンフレットから岡本さんが引用されたメルニコフの言葉にも100パーセント同感です。

>そう、ショスタコーヴィチは神ではなく、「人間」なのである。そのことが今日のリサイタルでよくわかった。

そうなんです。だからこそ心底愛おしいのです。

>やっぱり録音には入り切っていない・・・。

そうでしょう、そうでしょうて(悔しい・・・笑)

こうなると、お次はバッハの平均律と交互の混合版、そう、かつて吉松先生が上手いこと名付けた、「ショスタコーバッハ」でのリサイタルにも行ってみたいと思われませんか?

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
いやぁ、実に良かったです。
言葉にできません。

ところで、プログラムを見てて気づいたのですが、昨日は名古屋の電気文化会館でやったみたいですね。
http://www.chudenfudosan.co.jp/info/detail.php?id=89
ちなみに、会場でふみくんに会いまして、彼から情報を得たのですが、3月4日(日)に井上道義が日比谷でショスタコの14番をやるそうで。
http://www.michiyoshi-inoue.com/2012/05/pr2012.html
生憎今のところ仕事で・・・。しかし、場合によってはまた行けるかも、なんて狙っております。
となると11日(日)のダスビまで毎週ショスタコ漬けということになります。(ついでに23日(金)は上野でインバルのショスタコ4番です)気が狂いそうです(笑)。

>「ショスタコーバッハ」でのリサイタルにも行ってみたいと思われませんか?

行ってみたいです。その思いをますます強くしました。

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雅之

>昨日は名古屋の電気文化会館でやったみたい

そうなんですよ!! 行った友人は皆超感動していたみたいです。
私は生憎家族の行事と重なりまして・・・、悔しいです(涙)。

名古屋では、今年はポゴレリッチやルプーもリサイタルやる予定らしいですが、私的には今回の悔しさに比べれば行けても行けなくてもどっちでもいいことです(笑)。

>3月4日(日)に井上道義が日比谷でショスタコの14番

それは、万障繰り合せても行くべきです!
もう、ショスタコとお仕事と、どっちが大切だと思ってるんですか!!

岡本軸よ、ぶれろ!!!(強く念じた・・・笑)

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岡本 浩和

>雅之様

>私的には今回の悔しさに比べれば行けても行けなくてもどっちでもいいことです

なるほど、実に残念でしたね。しかし、ポゴやルプーだって聴いたらそれはそれは感動ものですよ!お気持ちわからなくもないですが・・・(笑)

>もう、ショスタコとお仕事と、どっちが大切だと思ってるんですか!!

あーー、悪魔の声が・・・(爆)

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