音楽に国境はない

ほとんど画期的と言っていい1950年代のトータル・アルバム。
ギル・エヴァンスという名アレンジャーのサポートがあって成し遂げられたマイルス・デイヴィスの名盤のひとつ。僕は、どちらかと言うとマイルスが独壇場と化した(?)70年代以降の演奏よりこの頃の作品を好む。冒険的、斬新でありながら、あくまで「過ぎない」ところが魅力的だから。
この”Miles Ahead”も後の名盤”Sketches of Spain”を髣髴とさせるエキゾチックで抒情的な側面がうまく押し出され、このあたりはいかにもギル・エヴァンスの力量だろうことが容易に理解できる。マイルス・デイヴィスという天才はやっぱり相応のプロデュースする人間がいてこその才能なんだと、この当時のオーケストラをバックにしてのアルバムを聴くたびに思う。

Miles Davis+19:Miles Ahead

僕の手持ちのアルバムは、最初にリリースされた白人女性のジャケットでなく、マイルスの猛抗議により差し替えられた自身のポートレイトのもの(個人的には最初のものが好きだが、どういうわけか所有しているのはこちらの黄色い方)。
ここで菊地成孔+大谷能生の「マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」をひもとき、このアルバムの当該ページを具に読んでみる。

P298
さて、1956年リリースの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」と、57年リリースの「マイルス・アヘッド」の大成功によって、マイルス・デイヴィスはついに帝王としての輝かしい一歩を踏み出しました。この2枚で、マイルスは生涯にわたる自己モデルを確立しましたが、ここで「そんなマイルスのキャリアの頂点は、いったい何年か?」という、決着のつかない神学の難問にも似た愚かな問いを立ててみることにしましょう。・・・
発表時にストレートな支持を受け、後世における売り上げ累計がもっとも多く、彼独自の音楽性が結実を見せ、その成果によって音楽史が変わった、という3点にフォーカスするかぎり、マイルスのキャリアのピークは、1958年と1959年の2年間である。

菊地氏曰く、すなわちマイルス絶頂期を演出する発火点となったアルバムこそが以前採り上げた”’Round About Midnight”と本作だと。片や通常のマイルス・コンボによるスタジオ録音、方やギルとのコラボによるオーケストラ作品という、マイルス・デイヴィスの2つの側面を表す代表作たち。モダン・ジャズの古き良きエッセンスと革新性が同居し、55年を経た2012年の今聴いても見事に美しく、お洒落なアルバムは他にはなかなか見つけられないだろう。

“Miles Ahead”
“Blues for Pablo”

日々ロシア音楽とアメリカ音楽とを交互に聴いてゆくと世界が二分されていながら結局は「ひとつである」ことがあらためてわかる。強いて言うならショスタコーヴィチやプロコフィエフの音楽が陰であるならば、マイルスの音楽は陽である。そして、その逆もまた真。別の観点で捉えれば、マイルスのジャズこそ人間の影の部分を表し、ショスタコーヴィチらのロシア音楽が光の部分を表しているとも捉えることができる。
音楽に国境はない。

2 COMMENTS

雅之

>日々ロシア音楽とアメリカ音楽とを交互に聴いてゆくと世界が二分されていながら結局は「ひとつである」ことがあらためてわかる。

先日観た夢・・・。

・・・・・・私の秘蔵LPレコードをご紹介します。

1.ムソルグスキー作曲
 ラヴェル&バーンスタイン&ギル・エヴァンス編曲 「展覧会の絵」(オケ版)
 バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル
(マイルス・デイヴィス トランペット・ソロ)

2.ムソルグスキー作曲 
 ギル・エヴァンス編曲 「展覧会の絵」(ピアノ版)
 ギル・エヴァンス(ピアノ)  

オケ版は、随所でマイルスのトランペット・ソロのピアニシモ表現が素晴らしいですし、ピアノ版はギル・エヴァンスのジャズ編曲が筆舌に尽くしがたいです。
1959年ごろの貴重な録音で現在は廃盤で入手困難です。昔擦り切れるくらい聴いたのですが、盤が反ってしまい再生も不可能です。
CD-Rに録音し岡本さんにお送りしようと思ったのですが、残念です。・・・・・・

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岡本 浩和

>雅之様

おー、何て素敵な夢でしょう。

>1959年ごろの貴重な録音で現在は廃盤で入手困難です。

この音盤、名古屋あたりでほんのわずかな期間わずかな数だけ流通したと聞きます。
いやあ、聴いてみたいなぁ(笑)。

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