ラトルのブルックナー9番を聴いた。痺れた。

周囲で話題になっているラトルのブルックナーのSACDを贈っていただいた。
持つべきものは友、あるいは人脈(笑)。ここのところ音盤(特にCD。専ら映像中心に漁っていたので)購入から少しばかり遠ざかっているので、久しぶりの新譜拝聴ということになる。
ラトルの棒さばきはとても丁寧で、常に新しいことをどこかしらでやってくれるところが昔から好きで(こればっかりは賛否両論、好き嫌いもあるでしょうが)、とはいえ新機軸が決して傍若無人でもなく、理に適っていることが大抵なので、とても安心して聴ける点が素敵。

問題のブルックナーの9番。この未完成の作品はもう僕らの耳にはアダージョで終了することが常識になっていて、ブルックナー先生が遺言に残した「テ・デウム」を最終章につけることはもちろんのこと、僕はこれまで研究者が競い合って再構築した補筆完成版フィナーレとともに演奏することに少々懐疑的だった(それは、例のインバルがフランクフルト放送響と録音した音盤を聴いた上でも)。おそらく実演で聴いたらまた違った印象を持つのだろうが、やっぱりあれはアダージョで終わらせておいた方がより神秘的で、より伝説的で、と勝手に(長い習慣も後押しして)決めつけていた。

しかしながら、作曲者本人は亡くなる当日の朝まで最後の楽章の推敲に時間をかけていたわけだし、神に捧げられたとはいえ全曲の完成が悲願だったはずなのは間違いなく、研究者の勇気ある行為、そして演奏家のこういうチャレンジについては当然拍手喝采を送るべきなんだろうと、先日水村美苗氏による漱石の「明暗」の続編を読んだ時にそれがあまりに素晴らしい出来だったから(確かにあれは漱石が書いたものじゃないけれど、なるほどと唸らせられるほどの説得力のあるものだったからあとに残された人間が想像力、創造力を掻き立てられて創造者の意志を代弁するのはやっぱりありだな)ブルックナーのこの件についても同じように考えさせられた。そのことを今回のラトルの演奏を聴いてますます痛感した。

最初の3つの楽章は良かった。ベルリン・フィルの圧倒的な合奏能力がものをいっているし、ラトルの計算された緻密さが手に取るようにわかる。それにも増して、第4楽章SPCM2012年補筆完成版には度肝を抜かれた。そして、国内盤ライナーのこの補筆に関する詳しい記事がとても参考になる。

ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(第4楽章付)
サマーレ=フィリップス=コールス=マッツーカ2012年補筆完成版
サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(2012.2.7-9Live)

ブルックナーの場合、やはり終楽章が肝。この補筆版に関しても何より最後の「主題の統合」から「コーダ」にかけてが身震いするほどの素晴らしさ。
第8交響曲のそれに準拠するかのような音楽はブルックナーの真髄ここにありという印象(実際にブルックナーが創っていたらどうなっていたかはわからないが、後世の研究者の視点からだとこれが最善の方法だろうと思われる。これらの偉業を達成した4名の方々に拍手喝采を送りたい)。それとコーダ前で第1楽章第1主題が再現されるところもいかにもブルックナー的で思わず笑みがこぼれる。

いやはや感激。思わず2度繰り返し聴いた。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。

ブルックナーの交響曲第9番補筆完成作業は今も現在進行形ですよね。

ラトルによる新盤、インバル&フランクフルトRSOの録音(サマーレ=マッツーカ補完 1986年版)のころとは隔世の感があります。
この、サマーレ=フィリップス=コールス=マッツーカによる補筆完成版とキャラガンによる完成版 (2010年改訂版が最新か)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4106984
がよいライバル関係になっており、お互い切磋琢磨して毎年のように完成度を高めあっているのが素晴らしいです。

こうした正統派とは別に、マルテ版という「トンデモ版」(笑)もあり、これも滅法楽しい版です。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1202357

マルテ版までくれば、いっそ「吉松版」なんていうのも聴いてみたいものです。きっと東北地方と北欧の寂寥感が加わった、いい味が出せると思いますけどね、先生だったら・・・。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

こんばんは。
この音盤には久々に度肝を抜かれました。

>よいライバル関係になっており、お互い切磋琢磨して毎年のように完成度を高めあっているのが素晴らしいです。

おっしゃるとおりですね。
しかし、マルテ版とは初耳でした!!!
これはまた面白そうです。
ありがとうございます。

>いっそ「吉松版」なんていうのも聴いてみたい

確かに!(笑)
吉松先生はブルックナーに造詣深かったでしたっけ?

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む