札幌交響楽団東京公演2013

オール・シベリウス・プログラムならばと、思い立ってサントリーホールに向かった。とても良かった。札幌交響楽団の東京公演。2年前、ちょうど震災の10日前にショスタコーヴィチを聴いて以来。あの時も予想以上の素晴らしい演奏だった。

「悩む」というのは「観念(思い込み)」を持つ人間だけの特権だ。時に「悩み」が一切ないという人に出会うが、僕は信じない。そんな訳がない。そういう人は、自分の内側にある闇の部分を見ないようにしているだけか、あるいは自分に言い聞かせるかのようにその場しのぎで対処しているだけだ。今夜のシベリウスを聴いて即座にそういう思いが湧き上がった。

ホクレンクラシックスペシャル
札幌交響楽団東京公演2013
2013年3月5日(火)19:00開演
サントリーホール
尾高忠明指揮札幌交響楽団
コンサートマスター:大平まゆみ

シベリウス:
・交響詩「フィンランディア」作品26
・交響曲第3番ハ長調作品52
休憩
・交響曲第1番ホ短調作品39
アンコール~
エルガー:弦楽のためのセレナーデホ短調作品20~第2楽章ラルゲット

シベリウスの音楽は「悩み」の音楽だ。ベートーヴェンが「苦悩から歓喜へ」というモットーにより音楽を創造したのに対し、彼はまったく逆の方法をとる。
第3番の、必要以上に明るく振る舞おうとする第1楽章の愉悦。尾高氏の指揮ダンスがそのことを一層強調する。第2楽章に入ると雲行きが変わる。いかにも崇高な匂いを発し始めるのである。そして、フィナーレに辿り着くやようやくシベリウスの本性が現れる。そう、第1番や第2番交響曲でのシベリウスは「ありのままのシベリウス」でないことがこの時点で明らかになるということだ。まさにコスモスからカオスへ、人は悩める生物なんだといわんばかりの「暗黒の世界」へ我々を引き摺り込もうとする。「闇」を直視しろと彼は言う。なぜなら、苦悩を体験していない人には人の気持ちなんて本当にはわからないだろうから。わからない輩には本音なんて絶対に語るまいと言わんばかりに、最後の最後になって作曲家は深層を吐露するのである。闇なくして光はないということか。第1楽章のコラール主題が回帰するとき、そこには「調和」が現れる。

札響の第3交響曲を聴いて、この曲が当時のシベリウスの本音、心情吐露であると理解した。それは、彼が人生において聴衆に初めて本音を語った瞬間ではなかったのか。

その意味で「フィンランディア」には誇張がある。ここにある「愛国心」というのはひょっとして作り物ではないのか?もちろん彼が当時ロシアからの独立を願っていなかったということはないだろう。自分が祖国を鼓舞する音楽を創造することで全国民をひとつにしようという意志があったことは間違いない。でも、それは一種背伸びのようにも思えるのだ。そこには「無理」があるのである。そのことは交響曲第1番にも言えまいか。表面上は「生を謳歌する」、そういう喜びに溢れているようだが、実際にそこにあるのは鬱屈した哀しみ・・・。世紀をまたぎ外界で起こる様々に懸命に対処しようとするシベリウスの苦悩。

そんなことが頭を過ったけれど・・・、今夜のシベリウスは最高に良かった。いずれの曲もシベリウスそのものだ。それがありのままの姿だろうと背伸びして着飾った姿だろうとシベリウスであることに違いはない。来年は第2番と第4番が舞台にかけられるみたい。今から楽しみ・・・。

ところで、珍しくアンコール前に尾高氏がマイクでご挨拶された。
ヘルシンキで舘野さんと演奏した時のこと、アイノラを訪れ、ここで第3交響曲が書かれたのかという思いが過り、思わず感動したこと。そして、ヘルシンキ・フィルの団員に、日本ではシベリウス演奏が歓待されて嬉しいのだが、第2番しかやらせてもらえないのが苦痛だと冗談交じりに言われたこと。さらに、アンコールでは本来ならばシベリウスをやるべきなのだが、同じようにまだまだメジャーになりきらない作曲家が英国にいて、その人をもっと聴いてもらいたいんだとエルガーの作品をアンコールに選んだこと。
この弦楽セレナーデが半端なく良かった。札響の弦楽パートの力量は相当なものだ。

7 COMMENTS

ふみ

お、これ行かれたんですね。素晴らしかったようで何よりです。ちょっと気にはなっていたのですが…
僕はインキネン/日フィルのシベリウス全集に行こうかと。ただ、日フィルではちょっとなぁ…なんて先入観は持っちゃいけませんね。

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岡本 浩和

>ふみ君
良かった、素晴らしかった。まぁ、セーゲルスタムには敵わないかもだけど、何せ3番と1番だからね。ちなみに来年は4番と2番。必修です。(笑)
インキネン&日フィルも良いと思うよ。
とはいえ、ふみ君はオケの技術にうるさいからなぁ・・・(笑)。

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ふみ

3番は超名曲ですからねぇ。
あれ、僕ってオケの技術にうるさいですかね(笑)ただ、少なくともシベリウスに関しては弦を始め、オケ技術は重視するかも…
日フィルの汚い弦ではちょっとなぁ…と言わず、まずは聴いて来ます。初回は1.5ですね。

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岡本 浩和

>ふみ君
いやあ、シベリウスに限らずうるさいよ・・・(笑)。
昨日の弦は良かったけどね。
また感想聞かせてください。

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ふみ

いや、でも、シェルヘン/ルガノいける口ですからねぇ(笑)
正直な感想をまたお伝えします。辛辣、生意気な事も含め。

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