ピリスのシューベルト3つのピアノ小品D946(1997.9-10録音)を聴いて思ふ

schubert_impromptue_pires280フランツ・シューベルトの「3つのピアノ小品D946」はやっぱり美しい。
こんなにも切なく、これほどに愛らしく、時間、すなわち生命が有限であることを身近に感じさせてくれる音楽はそうそうない。
心に直接訴えかける節は、まさに死を目前にした若きシューベルトの「白鳥の歌」であり、ここには希望と不安が錯綜し、そして愛と死とがひとつとなり、作曲者の魂の叫びが刻印される。
青白い響き。内田光子の弾くD946は大変に素晴らしい。また、マウリツィオ・ポリーニのそれは、死をまったく意識しないポジティブな音楽だ。あるいは、パウル・バドゥラ=スコダの、老練の枯れた音調の味わい深い歌。

ちなみに、20年近く前にマリア・ジョアン・ピリスが録音したそれは、そこはかとない哀しみに溢れ、時折愉悦の舞踏が聴こえるものの、一貫して死と対峙するシューベルトの魂が上手に表現される。
彼女の弾くシューベルトは優しい。正面から生を見つめ、そこに命を懸け、僕たちに夢と希望を与えてくれる。

それにしてもシューベルトがこの作品を封印しようとしていたことが逆に興味深い。
例によって、各々の楽曲は冗長と言っても良いくらい長い。そのことを本人が自身の短所としてとらえていたのかどうかはわからないけれど、少なくともこの作品に限っては、この「永遠を思わせる」長さに大いなる魅力がある。

シューベルト:
・即興曲集D899(1996.7録音)
・アレグレットD915(1997.9-10録音)
・即興曲集D935(1997.9-10録音)
・3つのピアノ小品D946(1997.9-10録音)
マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ)

第1曲アレグロ・アッサイにみる、暗澹たる舞踏。生と死の狭間で移ろうシューベルトの魂。なるほど、これは死の舞踏だ。
また、第2曲アレグレットの、あまりに美しい主題に釘付けになり、直後に表れる激情的な旋律に作曲者のエネルギーの発露を思う。ここでピリスは鬱積したものを弾け飛ばすほどのパッションと、あくまで母性に根ざした柔和な愛を見事に対比させる。嗚呼、いつまでも浸っていたい音楽だ。
そして、第3曲アレグロの、すべてを悟り、あらゆる執着を捨て去ったが如くの明朗な音楽に、シューベルトがわずか31歳で亡くならざるを得なかったことを知らしめられる。
どの曲もピリスの類い稀なる力量あってのこと。
ウィーンの中央墓地の墓碑に刻まれる言葉を僕は思う。

音芸術は豊かな財宝を

はるかに美しい希望の数々を
ここに埋めた
前田昭雄著「カラー版作曲家の生涯 シューベルト」(新潮文庫)P175

 

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1 COMMENT

畑山千恵子

今年、ピレシュはベートーヴェン中心にコンサート・ツアーを行うそうです。チケットを取り、聴きに行く予定です。10月27日、29日がコンツェルト全曲、11月7日がアントニオ・メネセスとのデュオ、11月12日、15日が若手ピアニストとのジョイント・コンサートです。

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