熱気と興奮。ピアニストの誕生日当日のせいか会場は大盛況。
音楽は全編キラキラ、しかも重心がしっかりした安定感のある音色。
プログラムは、戦争で右腕を失ったパウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱による作品と、病気のため半身不随となった今宵の主人公に捧げられた作品のサンドイッチ。
そんな悲哀を含んだ音楽たちにもかかわらず、ここには痛々しさはなかった。それどころか、音楽は常に生き生きと、そしてまた堂々と高鳴っていた。
とてもリラックスしたムードの中で弾かれた、前半最初の池辺晋一郎による協奏曲は、短いながらとても骨太の、それでいて嫋やかな調子を喚起する作品。
作曲者の「舘野さんは、多くの人々に光と勇気を届け続けている。その営為の端に、微力でも連なりたいという願いを込めながら・・・。」という言葉が、そのまま反映されたような力強さに感銘を受けた。
また、続くパウル・ヒンデミットの「左手のための協奏曲」は作曲者らしい愉悦に溢れた作品。長らく封印されていたが、それだけに何とも感涙もの。何より管弦楽の独奏パートの力量が重要になる中、今宵のシティ・フィルの面々は気合いが入っていたようでいずれも実に素晴らしかった。申し分なし。第3楽章の、どこかで聴いたことのあるような懐かしい夢見る旋律に心動き、終楽章の快活な爆発に僕は歓喜した。
舘野泉傘寿記念コンサート
80歳、最初の挑戦 4つのピアノ協奏曲~心を揺さぶる人生讃歌
2016年11月10日(木)19時開演
東京オペラシティコンサートホール
舘野泉(ピアノ)
高関健指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
・池辺晋一郎:ピアノ協奏曲第3番「西風に寄せて」~左手のために(舘野泉に捧ぐ)(2013)
・パウル・ヒンデミット:管弦楽付きピアノ音楽作品29(左手のためのピアノ協奏曲)(1923)
休憩
・ルネ・シュタール:ファンタスティック・ダンス~オーケストラと左手ピアノのための(舘野泉に捧ぐ)(2016)
・モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲(1930)
~アンコール
・山田耕筰(梶谷修編曲):赤とんぼ
休憩を挟み後半。突然の天皇皇后両陛下のご入場に皆吃驚。さすがに両陛下のご臨席とあって、会場の雰囲気は一変、これだけで全体が一丸となる不思議な光景。当然ピアニストも指揮者も、もちろんオーケストラも一層の力が入ったように感じられた。
舘野さんに捧げられたシュタールの協奏曲は確かに素晴らしかったが、最後のラヴェルですべてがぶっ飛んでしまったよう。本当に最高!!言葉にならないかっこう良さ!
冒頭の管弦楽による地鳴りのような濃密な音楽はそれだけで魂に直接響く。その後のピアノ独奏部の老練の美しさ。中間部の爆発も極めつけ、またカデンツァの透明感!ラヴェル一世一代のこの作品は、やはり実演で聴かない限り真髄はわからないだろう。
ちなみに、この作品は舘野さんの十八番のようで、これだけは暗譜で演奏された。音楽が進むにつれ熱を帯び、ピアニストの一層没頭する様にとても80歳の老人とは思えないエネルギーを感じ、震えた。
終演後、まずは管弦楽によるハッピーバースデー。
そしてアンコールに、何て素敵なピアノだろう、ついほろっと涙してしまった「赤とんぼ」パラフレーズ。
素晴らしい一夜だった。
※FNN天皇皇后両陛下、「左手のピアニスト」傘寿記念コンサートご鑑賞
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舘野泉さんは両手が使えたころから好きでリサイタルに何回か行きましたし(彼のシューマンなども素晴らしかったです)、ラヴェル「左手のための協奏曲」は私も東京に居た時聴いてこちらにコメントもしたこともありました。最初は、周囲がすぐこの曲と自分を結び付ようとすることに抵抗されていたようですが、その後吹っ切れられたようですね。その気持ちの過程はよく理解できます。
それと何といっても「日本シベリウス協会会長」ですからね。その功績も多大なものがありますよね。
直近の記念すべき舘野さんを聴けていいですね!
>雅之様
昨日は本当に素晴らしいコンサートでした。両手が使えた頃の舘野さんの実演は結局聴けなかったことが残念ではありますが、彼の人柄が十分に反映された温かい演奏でした。
ちなみにシベリウス協会の会長は2年前に退かれていて、今は最高顧問という肩書のようです。(会長は新田ユリさん)
[…] 前半のアンコールで奏されたブーレーズの「ノタシオン」の透徹された響きこそピエール=ローラン・エマールの真骨頂。「両手で」とあえて聴衆を笑わせたそのユーモアを吹っ飛ばすほどの凝縮された美しさ。 このアンコールといわば相似の関係にあるようなラヴェルの左手のための協奏曲は、先頃触れた舘野泉さんのそれとはまるで正反対の名演奏で、僕は時を忘れて華麗かつ色彩豊かな音楽に没頭した。 それにしても東京都交響楽団のアンサンブルといい独奏といい極上。一切の弛緩なく、どの瞬間も輝かしく、中間部アレグロの管弦楽の突然の爆発と行進曲の妙。そして、味わい深いカデンツァの静けさとその後のクライマックスに向かう音楽の表現力に舌を巻いた。完璧である。 […]