ブーレーズ指揮BBC響の「婚礼の顔」「水の太陽」(1989.11録音)ほかを聴いて思ふ

音に聞くと、見る時とは何事も変るものなり。
(吉田兼好)

ピエール・ブーレーズの紡ぐ音は、どんなときも繊細で、挑戦的だ。もちろん彼が生み出す作品も然り。晩年の彼の言葉には、簡潔でありながら奥深い洞察に富んだものが多い。例えば、晩年(2009年)の、京都賞受賞時のインタビュー

「あの人はいつもあのような作風である」と思ってはいけません。そうではないのです。もし「何か違うものをやってくれ」と言われれば、何か違うものを私は創ってみせます。私にとって重要なことです。つまりこれこそが創造行為なのです。何かを創造し、丁寧に手を入れ、現実のものとする。そうして実際に演奏できるようにもってくる。しかし、ここで終わりではありません。ゴールとは、自身を表現できたときに初めて到達するものです。
(ピエール・ブーレーズ)

創造行為に終わりはないのだとブーレーズは言う。
もちろん人生そのものに卒業もない。何にせよ生涯現役を貫けということだ。

ブーレーズの志向はいつも違う。
常に進化し、革新を起こそうと彼は目論んでいた。
作品を発表するたびに物議を醸してきた彼の創造物は、(通俗のレベルを良しとしない思想から)とても難解であることが多い。

社会はエンターテイナーを求めていますが、それは通俗のレベルです。創造するにはもうひとつ上のレベルに行かなければなりません。重要なのは自分をいかに表現するかということです。自分を表現するからには聴衆に納得してもらいたい。これは大事なことです。
(ピエール・ブーレーズ)

しかし、虚心に耳を傾けると、つまり音そのものに集中すると、あるとき手に取るようにわかる瞬間が訪れることが興味深い。そういう出来事こそが彼の言う「文化」の発露なのだと思う。

去年、サントリーホールで聴いた「プリ・スロン・プリ」も決して難解な音楽ではなかった。無心に音を追ったときに感じられた「空(くう)」は、絶美だった。

ブーレーズ:
・「婚礼の顔」(1946、1951改訂、1988-89再改訂)(1989.11録音)
・カンタータ「水の太陽」(1948、1950, 58&65改訂)(1989.11録音)
・フィギュール―ドゥブル―プリスム(1957-58/63-64)(1968改訂)(1985.3録音)
フィリス・ブリン=ジュルソン(ソプラノ)
エリザベス・ロランス(アルト)
BBCシンガーズ
ピエール・ブーレーズ指揮BBC交響楽団

文字通り繰り返し改訂を施された自作の決定版。もちろんこれが唯一無二の解釈ではない。しかし、彼以上に彼の作品を、相当の説得力を持って振ることのできる指揮者が他にあるだろうか。
そもそも音に迷いがない。確信をもって常に前に向かって進む音楽の、鋼のような切れ味は、音楽の醍醐味。精密な機械仕掛けのような現代音楽に官能をミックスした「フィギュール―ドゥブル―プリスム」の美しさ。あるいは、5曲からなるソプラノ、メゾソプラノ、合唱と管弦楽のための「婚礼の顔」の洗練された瑞々しい音。

音がきれいだ。
ピエール・ブーレーズが亡くなってまもなく3年になる。

 

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