プフィッツナーの「英雄」

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ䕃
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ

雨ニモマケズ、風ニモマケズ・・・、大震災以来宮澤賢治のこの名詩が彼の地では取り沙汰されているようだが、これほどまでに謙虚で人間のあるべき姿を投影した心の叫びというのはなかなかないように思う。「自然」に神を見出したのだろう賢治が好んで聴いていたのがハンス・プフィッツナー指揮によるベートーヴェンの「田園」交響曲だったことは知る人ぞ知る有名な話である。あの時代にそもそもレコードを所有していたこと自体大変なものだと思うが、よりによって「田園」である。今やベートーヴェンの9つのシンフォニーの中で最高傑作だと僕が勝手に認定する第6交響曲を愛でていたとは・・・。

残念ながらプフィッツナー指揮する「田園」交響曲は未聴。代わりにといっては何だが「エロイカ」の方は予てよりの愛聴盤。1929年という80年以上前の録音だが、見事に鑑賞には耐える。いや、というより吃驚するほど音質は良く、十分に彼の音楽が堪能できるほど。そして何より音楽性満点で、フルトヴェングラーが同時代にベルリン・フィルとレコーディングしたどの音盤より輪郭もバランスも明晰で、久しぶりに聴いてみて、偉大なる「英雄」交響曲の真価をあらためて体感した。

ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
ハンス・プフィッツナー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1929)

テンポ感が抜群。どの楽章においてもだれることなく一気呵成に音楽が進められながら、歌うところは念入りに、実にリリシズムに溢れた名演奏。録音の関係上からか音の揺れが激しく、興ざめになる瞬間も多発するが、そこは想像力を働かせて乗り越えるべきところ。

ところで、台風15号の影響で名古屋では40万人に避難勧告が出されたとのこと。本当に今年は予想もできない事象が起こる。何があっても臨機応変に対処するにはやっぱり「固執」をできるだけ少なくすることだろう。物だけでなく人間関係においても・・・。


1 COMMENT

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む