クリュイタンスのは、印象派といっても、詩的で輪郭の曖昧なものより、散文的で明快な論理をもち、雄弁の力強さをもっているものにすぐれているのである。
~「吉田秀和全集5 指揮者について」(白水社)P59
より堅固な信念に基づいて描かれるバレエ音楽「ダフニスとクロエ」。
クレッシェンドに向けての追い込みというのか、その集中力とエネルギーの発露はかのシャルル・デュトワ盤を凌駕する。
先日の、シルヴァン・カンブルランによる「ダフニスとクロエ」を聴いてから、ラヴェル畢生のこのバレエ音楽をひたすら追って聴いている。聴けば聴くほど、時間をかけて創作されたこの音楽がどれほど素晴らしいものであり、また人類の至宝であるかがわかる。
そこはセルゲイ・ディアギレフの慧眼だ。ストラヴィンスキーやドビュッシーの委嘱作品以上に深遠なムジーク・ドラマが展開される様子に言葉がない。そこにアンドレ・クリュイタンスの棒であり、また時間をかけ、丁寧に作られた録音なのだ。
ヴォカリーズで歌われる合唱の出来がものをいう音楽だとあらためて思った。
第1部序奏と宗教的な踊りのシーンからクリュイタンスのものは別格。内燃するエロスが散発し、行き渡る様子に端から心奪われる。
第1場
・序奏と宗教的な踊り
・全員の踊り
・ドルコンのグロテスクな踊り
・ダフニスの優雅で軽やかな踊り
・リュセイオンの踊り
・夜想曲
・ゆっくりと神秘的な踊り
第2場
・間奏曲
・序奏
・戦いの踊り
・クロエの哀願の踊り
第3場
・序奏
・夜明け
・ダフニスとクロエの無言劇
・全員の踊り
時間の流れを実に映像的に表現するクリュイタンスの至芸。それは、バレエという視覚がなくとも音楽だけで聴衆を唸らせるだけの価値ある、永遠の名盤だ。演奏のテンションは終始一貫し、一定のエネルギーを保つ。踏み外しのない、文字通りモーリス・ラヴェルの傑作を信じて音化する「生真面目さ」が筆舌に尽くし難い。
※過去記事(2020年11月27日)
※過去記事(2007年8月21日)