伊福部昭の宇宙

週末のオーケストラ・ダスビダーニャ公演に向けて、せっかくだから「レニングラード」シンフォニーの前プロも予習しておこうと音盤を仕入れた。伊福部先生の作品はほとんど真面に聴いたことはなかったけれど(「戦前日本の管弦楽」という2枚組に収録された『土俗的三連画』くらいか)、実際きちんと耳にしてみると調性のしっかりしたとてもわかりやすい音楽でもっといろいろと勉強してみたいと思うようになった。
そういえば、いつだったかも書いたが、とある大学の講義に向かう途中で伊福部先生の自宅らしき屋敷を見つけた。主亡き今も表札には「伊福部昭」と大きな字で書かれていたから間違いないと思う。

「伊福部昭の芸術」シリーズの1枚。作曲者本人監修の下4枚が録音された模様。何よりライナーノーツの充実ぶりが素晴らしい。若い頃からの親友であったという音楽評論家の三浦淳史氏の「伊福部昭の宇宙」と題するテキストの転載や、片山素秀氏(片山杜秀氏の本名)による「伊福部昭の肖像」という小論、そして何より伊福部昭氏ご本人が書く「自作を語る」というテキスト。いずれも本当に興味深い。伊福部先生は「ゴジラ」で圧倒的に有名だが、ともかくもっとたくさんの楽曲を聴いてみたくなる。日本的情緒に溢れ、しかも西洋音楽的語法を縦横に駆使されひとつひとつを個性的に創造されている点が見逃せない。

伊福部昭の芸術2 「響」―交響楽の世界
伊福部昭:
・シンフォニア・タプカーラ(1954/79)
・管弦楽のための「日本組曲」(1933/91)
広上淳一指揮日本フィルハーモニー交響楽団(1995.8.22-24,29-31,9.1録音)

まずは「日本組曲」の方を。この何とも一聴古臭く感じられる日本的美徳を根底に配する音楽の様に身体の動きが止まる。懐かしい・・・、いつかどこかで聴いた旋律が現れては消え、消えては現れる。嗚呼、自分は日本人なのだということを再確認するひと時。
そして、シンフォニア・タプカーラ(その初版は映画音楽「ゴジラ」と同年に生まれているらしい。まさに「ゴジラ」と双子でありながらまったく性格を異にする作品)。アイヌの「タプカーラ」という踊り(男性の立ち踊りで、両手を前に差し伸べ、腰を落として、両足を踏み鳴らしながら舞う、儀式の際の重要な踊り)がモチーフになっているようで、特に第3楽章にその気分の再現が狙われているようだが、第2楽章アダージョの北欧の冷たい風景にも似た、時間が止まったような静かな音楽(冒頭のハープの音階に乗って示されるフルートの旋律!)が一層胸を打つ。
繰り返し聴く価値のある音盤をまた見つけた、そんな気持ち。
さて、週末まで何度か耳にしてみようか・・・。


4 COMMENTS

雅之

こんばんは。

伊福部昭のCDは、近年沢山出ましたね。私はもっぱらナクソス盤で楽しんでいます。
http://www.amazon.co.jp/%E4%BC%8A%E7%A6%8F%E9%83%A8%E6%98%AD-%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%83%97%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%A9-%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%A3/dp/B00069BP9A/ref=sr_1_12?s=music&ie=UTF8&qid=1331126604&sr=1-12
片山杜秀氏の解説はこのCDのライナーノーツも勉強になります。ロシアの指揮者とオケによる伊福部昭もなかなかいけます。

それと、何回も繰り返しコメントしたかもしれないけれど、近年のゴジラ映像で最も私のお気に入りは、「続・三丁目の夕日」の冒頭で、あれは真に最高でした。
http://www.youtube.com/watch?v=L_HkTP0ldv0

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
なるほどナクソス盤は興味深いですね。
アマゾンのレビューでは賛否両論ですが、「日本組曲」では伊福部氏ご本人が楽譜通りでない指示を指揮者にして演奏させているようなのでこのあたりは聴き比べてみたいところです。(ちょうどシュトラウスが「ツァラトゥストラ」冒頭で楽譜通り演奏していないように)

>「続・三丁目の夕日」の冒頭

何度見ても最高ですね。

返信する
アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » 祖国への愛

[…] ダスビの興奮いまだ冷めやらぬ本日、溜まった企画書作りと事務作業を急ピッチで進めた。もちろんバックグラウンド・ミュージックはショスタコーヴィチといきたいところだが、少しばかりお耳の休憩(さすがにショスタコの音楽は暗く重く、これまでの人生になく連続的に聴いて来たものだから少々疲れ気味。決して飽きることはないのだが、精神が不安定になってきた・・・爆笑)。とはいえ、伊福部の「日本組曲」についても僕的には相当衝撃的だったみたいで、第4曲「佞武多(ねぶた)」が頭から離れない。どこかで聴いたリズム、旋律だなと初めて耳にしたときから思っていたが、ふと思い当たる音盤があり取り出して聴いてみたら・・・。 いやはや、結構似てる(この結構というのがポイント・・・笑)。 ということで、久しぶりに英国が誇る孤高のシンフォニック・ロック・バンドThe Enidを繰り返し。 […]

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む