フルトヴェングラーの「魔笛」(1949)

フルトヴェングラーの芸術というのは、絶対音楽の場合でもオペラなどの場合でもその最終シーンにクライマックス、力点を設定する方法なんだと昨日「マタイ受難曲」を聴いてあらためて思った。他はどうかと、確認の意味も込めてこれまた久しぶりに1949年ザルツブルク音楽祭での「魔笛」の実況録音を聴いてみた。特に、第2幕冒頭と第2幕フィナーレの部分を繰り返し、念入りに。決して最良の音質とはいえないまでも、当時の録音としては画期的なくらい聴き易い音に仕上がっているところがこれまた良い。もちろんフルトヴェングラーの生み出す音のひとつひとつの意味合い、というか「つながり」も絶妙の妙で、モーツァルトが最晩年に至った思想の根幹と透き通った音のずしりとした響きに、身も心も引き裂かれるかのように(笑)感動してしまった。

まずは第2幕のザラストロによるアリア「おお、イシスとオシリスの神よ」の意味深さよ。

「汝ら、叡智の神殿で大いなる神オシリスとイシスに身を捧げた僧たちよ!清らかな魂もて汝たちに告げよう、我らの今日の集いは、この時代で最も重要なもののひとつである。王の子にして二十歳になるタミーノは我らの神殿の北の門を遍歴し、我々皆が辛苦と精励もて獲ち得べき対象を、徳高き心もて得んものとこがれている。要するに、この若者は、夜のヴェールを自ら引き裂き、まばゆく光り輝く聖なるものに目を向けようとしている。この徳高いものを見守り、彼に友情ある手を差し伸べるのが今日我らの最も重要な義務であろう。」~名作オペラブックス5「魔笛」(音楽之友社)

そして、まさにフルトヴェングラーのためにあるような哲学的解釈が見事にツボにはまるフィナーレの、世界がひとつになる調和的現出。

3人の童子の言葉、「やめなさい、ああ、パパゲーノ!利口になるのです。一度だけしか生きられないのです。これだけ言えば十分でしょう。」

そして、オーラス
モノスタートス、夜の女王、侍女の三重唱、
「我らの力は打ち砕かれ、滅び去った、我らはすべて、永遠の夜へと堕ちて行く。」
ザラストロ、
「太陽の光は夜を追い払い、偽善者の不正な力を撃ち滅ぼした。」
僧侶たち、
「汝ら浄められた人たちよ、万歳!汝らは夜を押しのけた。オシリスの神よ、汝に感謝する、イシスの神よ、汝に感謝する!強い者が勝ち、報いとして、美と叡智には永遠の王冠が飾られる!」

モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620
ヨーゼフ・グラインドル(ザラストロ)
ヴァルター・ルートヴィヒ(タミーノ)
ヴィルマ・リップ(夜の女王)
イルムガルト・ゼーフリート(パミーナ)
カール・シュミット=ヴァルター(パパゲーノ)
エディット・オラヴェス(パパゲーナ)ほか
ウィーン国立歌劇場合唱団
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1949.7.27Live)

何度聴いても「魔笛」は最高の芸術である。モーツァルトが全人類のカルマを背負って35歳で逝かざるを得なかった理由がこの中にある。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

同感です。フルトヴェングラーで聴くと、「魔笛」の宗教曲的側面、あるいはワーグナー「パルジファル」のような一面が明らかになり、荘厳で、大変感動的ですよね。

今朝は平日で、残念ながらモーツァルトやフリーメイソンをこれ以上コメントする時間がありません。

まもなく金環日食です!!

気分を盛り上げるために2枚ご紹介します(ジャケットに注目! オススメです・・・笑)。

ホルスト:『惑星』 プレヴィン&ロンドン響 (CD)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%88-%E6%83%91%E6%98%9F-%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3-%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AC/dp/B000AU1NL0/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1337514194&sr=1-1

ホルスト:管弦楽作品集第2集~『惑星』、『ベニ・モラ』、『日本組曲』 A.デイヴィス&BBCフィル (SACD)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3980207

・・・・・・西欧ではヘレニズム期より惑星は神々と結び付けられ、この思想はルネサンス期に錬金術と結びついて、宇宙と自然の対応を説く自然哲学へと発展した。・・・・・・・ウィキペディア  『(ホルスト)惑星』より

>オシリスの神よ、汝に感謝する、イシスの神よ、汝に感謝する!

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>「魔笛」の宗教曲的側面、あるいはワーグナー「パルジファル」のような一面が明らかになり、荘厳で、大変感動的

はい、おっしゃるとおりです。

>残念ながらモーツァルトやフリーメイソンをこれ以上コメントする時間がありません。

この点についてはまた時間のある時にゆっくりとご意見ください。
ところで、ご紹介の「惑星」、いずれも未聴ですが、特にA.デイヴィス盤面白そうですね。

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