ビートルズ×ジョン・ケージ

ジョン・ケージが亡くなって20年が経過する。僕はケージの優秀な聴き手ではないけれど、その斬新な方法や音に内在する精神的響きにいつも舌を巻く。

昨日、ジョン・レノンを聴いていて、あの時ジョンが亡くなっていなかったら世界の音楽地図はどんな風に変化していたのだろうと想像した。ジョンの「方法」はいくつかあるにせよ、彼が創った音楽だということが一聴してわかるものがほとんど。実際、作品に触れていて、あれ、どこかで聴いたなと思わせるものが多い(例えば、”Walls And Bridges”に収録される”Steel And Glass”などは”Imagine”所収の”How Do You Sleep?”にそっくり)。しかし、それこそがジョンの特別な個性であり、ファンにとっては唯一無二の「らしさ」が感じられるところだから、同じパターンで攻めてこようが何だろうが許せてしまうのだけれど(偉そう?・・・笑)。
彼は”Imagine”に代表される愛と平和の象徴としてだけ尊敬されているのだろうか?僕にはそうは思えない。そんな一筋縄の人じゃない(そんなのは糞くらえだ、そんなつもりで作ったんじゃないときっぱりジョンは断言するだろう)。命が断たれたあの日以降、ジョンは聖人君子になってしまった。もちろん”Love & Peace”を彼自身が掲げていたのだからそういう一面はあるにはある。でも、それだけじゃない。
50歳のジョン・レノンは、俗人としての、人としてどうしようもない自分もいるんだっていうことをより一層強く押し出すようになっていたかも。そして、60歳のジョンもやっぱり俗物根性丸出しだったかも(笑)。

物事がうまく行きすぎると人は高慢になるという。時に挫折があり、いつも苦しいことがあるから謙虚でいられるんだ。俗人ジョン・レノンはそういうことも教えてくれる。

ところで、20数年前、高橋アキが内外の友人たちに「ビートルズの作品の中から、あなたの好きな1曲を選んでアレンジをしてください」という呼びかけをしたところ、多くの作曲家がそれに応えて作品を送ってくれたという。それらをきちんと録音したものがシリーズで何枚かリリースされているが、その最初の巻を僕は持っている。長いこと聴いていなかったが、そういえばジョン・ケージもそこに参加していたことを思い出し、聴いてみた。他の作曲家のアレンジも見事なものだが、ケージのこの1曲がひと際輝いており、これを聴くだけでも大いに価値がある。

“The Beatles 1962-1970”

これぞジョン・ケージの天才!
それは、多重録音された6つのピアノ・パートに分かれ、さらにそれらのパートの中にそれぞれ8つのメロディか伴奏型かに分けられたフラグメントが入っているという作品で、そのフラグメントには何と27のビートルズ・ソングが散りばめられているというもの。
実際聴いてみて、何の曲かを即座に当てるのは難しい。複雑に、しかもとても上手くコラージュされているから頭の中で曲名を探しているうちに音楽が錯綜して前に進む。

ハイパー・ビートルズ
高橋アキ(ピアノ)

もういろんなところで言い古されていることだけれど、ビートルズというのはあの4人が出逢った奇跡だったんだと実感する。そこには、ジョンのソロ・ワークにない、ポールのにもない、ましてやジョージやリンゴにはない「何か」が。
そして、現代を代表する作曲家たちとのコラボレーションを通じて、新たな形で提示されるビートルズ作品は、音楽の力を通してまた違った啓示を僕らにもたらす。
何より音楽の天才職人たちの想像力をくすぐり、創造力を掻き立てる天才ソング・ライターたちの大いなる傑作群に敬意を表し・・・。

そういえば、山下達郎が「聴き手が歌に新しい意味付けを加えていくもので、一たび世に出れば、作曲者だけのものでなく聴き手のものでもある」ということをよく言うが、ビートルズ作品というのはその典型であり、原点。


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