チョン・トリオのベートーヴェン

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1770年12月17日に洗礼を受けた記録が残されている。よって一般的には前日の16日に生まれたのだろうと推測されるが定かではない。仮にその推測が正しいなら本日が誕生日だということだ。
ワークショップZEROで融け出す感覚、もともと皆がひとつでつながっていたんだという感覚を思い出し(それと間に合って良かったという思いと)、年末ということもあり、フルトヴェングラー指揮による第9交響曲でも聴こうかと思っていた。あのフィナーレの「歓喜の歌」の詩。

汝の魔力は世の習わしが強く引きはなしたものを
再び結びつけてくれる
汝のやさしい翼のひらくところ
すべての人々は兄弟(はらから)となる
(訳:渡辺護)

人は雨の水滴のよう。大河に落ち、大海に流れ、それらは渾然一体となる。なるほどもともとひとつだったということだ。それが蒸発し、気体となり、雲となってまた雨粒となる。自然とはその繰り返し。人間の一生も同じ。もともと兄弟であったことを思い出せとシラーもベートーヴェンも説く。そして、「汝」とは「歓び」のこと。また、ここでの「歓び」とは「神々の麗しき霊感」を指す。神は自身の内に存在する。ということは「直感(直観)」という力によって人々は「もとどおり」になれるのだと解釈できる。

しかしながら、今日のところは、晩年の、既に悟りを得たベートーヴェンは横に置いておくことにした。それより今の興味の中心は「傑作の森」時期、すなわち生まれ変わった直後の数年間の彼のこと。その時にベートーヴェンの内側では何が起こっていたのか。

1808年に作曲された2つのピアノ・トリオ。「幽霊」という名の第5番のラルゴ楽章はこの時期にして既に崇高な美しさを獲得する。先日から言及するフリーメイスンの木魂が変ホ長調のものと同様、ここにも聴こえてくるようだ。

ベートーヴェン:
・ピアノ三重奏曲第1番変ホ長調作品1-1
・ピアノ三重奏曲第5番ニ長調作品70-1「幽霊」
チョン・トリオ
チョン・ミュンフン(ピアノ)
チョン・キョンファ(ヴァイオリン)
チョン・ミュンファ(チェロ)(1991.11録音)

チョン・トリオの録音は、リリース当初からほとんど話題にならなかった(と思う)。
どうして?
姉妹弟によるアンサンブルゆえ?
あまりに、呼吸と間が合い過ぎていて、いわゆる「ゆらぎ(遊び、あるいはのりしろ)」が足りないということ?
僕にはわからない。決して弛緩せず、緊張感もしっかり保たれる美しい演奏だと思うから。

さて、また新たな1週間がスタートする。しがらみによって引き離されたものが果たして再び結びつくのか?


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