アイノラ交響楽団第10回定期演奏会

ジャン・シベリウスの真価は実演でないと決してわからない。
昨年に引き続き、アイノラ交響楽団の定期演奏会を訪れ、後期の(以後彼は30年も存命だったわけだから晩年とは言えない)作品群を堪能した。このアマチュア・オケは想像以上のパフォーマンスをいつも創出する。金管や木管のソロなど相当に上手い。それと、アンサンブルも多少の乱れはあるものの、そこは団員の作曲家への「愛」がカバーしているのか、いささかも気にならない。真に素晴らしい。年にたった1度の定期だが、この1回にかける指揮者と奏者の意気込みが並大抵でなく、音楽の一音一音からそのことが感じられることがある意味脅威。そして、シベリウスのほとんど舞台にかけられる機会のない作品までもがこうやって実際に耳で、生で確認できることが何より嬉しい。

アイノラ交響楽団第10回定期演奏会
2013年3月17日(日)14時開演
杉並公会堂大ホール
新田ユリ指揮アイノラ交響楽団
シベリウス
・劇付随音楽「テンペスト」第2組曲作品109-3
・交響曲第7番ハ長調作品105
休憩
・組曲「ベルシャザール王の饗宴」作品51
・孤独なシュプールJS77b(ナレーション:ハンス・カールソン)
・交響詩「タピオラ」作品112
アンコール~
・アンダンテ・フェスティーヴォ

とりわけ第7番は良かった。トゥッティでの轟音も決してうるさくならず、肝心のトロンボーン・ソロも巧かった。木管群がユニゾンで奏するあたりもほとんどほころびなし。シベリウスの真骨頂を体感できることの喜びに感謝。決して大袈裟でなく、そんなことを思った前半。
休憩後の「ベルシャザール王」については初めて聴いた。オリエンタルな魅力にあふれた短い音楽が束の間の宴の如く可憐に表出される様が美しい。「孤独なシュプール」も弦楽合奏に埋まってしまうナレーションが少しばかり気になったが、わずか3分ほどで作曲者の晩年の思いが表現されているようで良かった。実にこの曲、当初は1925年、すなわち「タピオラ」と同時期にピアノと朗読で作曲されたのだが、1948年、いわゆる「沈黙の時代」に弦楽オーケストラ用に編曲されているのがミソ。孤高の境地が体感できる。
そして、締めの「タピオラ」。何ともティンパニがものをいう漆黒の世界。

北の大地に広がる薄暗く深遠なる森
太古の神秘的で猛々しき夢を抱き
森の強き神はその奥に棲み
木の精霊たちと秘密の魔法を織りなす
~プログラムより

「タピオラ」に添えられた4行詩だが、ここには日本の八百万と相似形の神が宿る。
もはやここまで。この後、シベリウスが創作に苦労したのもわからないでもない。今回のアイノラ響の表現は壮絶だった。冒頭から静寂を破るように強めに奏される音楽がそのことを物語る(最初金管が少々裏返ってしまったけれど)。頂点での怒号に似た響きはまさに森の木霊だ。
素敵なひととき。今宵は音楽なしに、静寂の中この記事を書く。感謝に堪えない・・・。


4 COMMENTS

ヤマザキ

私もいろいろアマオケを聴いていますが「アイノラ交響楽団」は知りませんでした。HPを見たらシベリウス他北欧音楽を愛するメンバーが集まった楽団なのですね。私もロシア音楽を演奏したくて結成されたアマオケ「アウローラ管弦楽団」を何回か聴きましたが、少しミスはあっても演奏にかける情熱はすばらしかったです。

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岡本 浩和

>ヤマザキ様
是非来年は一緒に行きませんか?
日程もプログラムも決定しております。

2014年4月13日
杉並公会堂大ホール
シベリウス:
・交響詩「大洋の女神」作品73
・歴史的情景第2番作品66
・歴史的情景第1番作品25
交響曲第1番作品39

本当に素晴らしいです。
あと、ぜひショスタコ専門のオーケストラ・ダスビダーニャも聴いていただきたく思います。こちらは来年の予定まだわかりませんが、毎年2月か3月に開催されています。最高です。
ちなみに、ヤマザキさんご推薦のアウローラは未聴ですので、必ず聴いてみます。ありがとうございます。

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ヤマザキ

シベ1大好きですし生で聴いたことがないので来年の定演是非一緒に行きたいです。よろしくお願いします。ちなみにアウローラの次回定演は以下で、私の好きなボロ2をやります。

2013年6月16日(日) 13時半開演
ミューザ川崎シンフォニーホール
交響曲第2番ロ短調「勇士」(A.P.ボロディン)
歌劇「イーゴリ公」より“アウローラ・セレクション”(A.P.ボロディン)

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岡本 浩和

>ヤマザキ様
では、時期が近づきましたらご案内いたします。
あと、6/16はすでに仕事が入っております。
残念ですが次の機会ですかね・・・。

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