Peter Gabriel i/o (Bright-Side Mix) (2023)

呼吸はあらゆる生命体の根源である。
ちなみに、人間の場合、3秒吸って5秒吐くことを自然体でできるのが理想の呼吸だと、以前教えていただいた。

大自然の運行に照準を当てる。
月齢、すなわち古の智慧たる新月と満月という節目に、自らを謙虚に振り返ること、そして世界に向けて祈りを捧げることが大切だとあらためて思う。

始まりの新月、そして円満の象徴である満月。
ピーター・ガブリエルの新作をリリースのときからずっと聴いてきた。1年と2ヶ月が経過し、意味と意義がようやく腑に落ちてきた。音楽的に傑作であることはもちろん間違いない。ただ、このアルバムが意味するところは何か?
僕はしばらく考えていた。

始まりは終わりであり、終わりはまた始まりでもある。
永遠の時間の中で、人間があえて区切りをつけた節目は、天の啓示でもあることをピーターはわかっていたのかどうなのか。
あえてプロデューサーを変え、Bright-Side MixとDark-Side Mixをセットにした気概。
その構想はすでに2002年に始まっていたというのだから驚きだ。

・Peter Gabriel:i/o (Bright-Side Mix) (2023)

多彩なPersonnelと、その多さにも驚きを隠せない(渾身のアルバムであることがこの点からも窺える)。マーク”スパイク“ステントによるミックス。

Peter Gabriel “Here Comes the Flood” (1977) Genesis, live at the Bataclan, Paris,16mm master (1973.1.10Live) Robert Fripp “Exposure” (1979)ほかを聴いて思ふ Robert Fripp “Exposure” (1979)ほかを聴いて思ふ peter gabriel ein deutsches album (1980)を聴いて思ふ peter gabriel ein deutsches album (1980)を聴いて思ふ

そもそもピーターがフロントマンを務めていた頃のジェネシスの、童話の世界から飛び出してきたような、高貴でありながら(ある種)エキセントリックな創造力が起点となり、特に最初の、”peter Gabriel”とタイトルされた4枚のアルバムが象徴するように、様々な音楽イディオムをとり込んだのちに、独自の世界を築き上げ、しばらく新作から遠ざかったその頂点、結論が本アルバムなのである(20年以上の歳月をかけて生み出したという点は、まるでブラームスの交響曲第1番ハ短調作品68とのようだ)。

すべてが満たされた音。
ピーターの声質はあの当時と何も変わることがない。
一層熟練された、深遠なる声は僕たちの魂までも刺激する。
素晴らしいアルバムだ。

ところで、ピーターがインタビューに答えている動画がある。
かつてのジェネシス時代のこと、自分の耳でチューニングをするのにとても時間がかかったこと、聴衆が歌手を見て、一体何が起っているのかと訝っていたこと、周囲の連中はどうしていいかわからず、うろちょろしている中で、どうすることもできず、自分は物語を語るしかなかったこと、その上で物語は登場人物になり、登場人物は衣裳になったという経緯。そして、バンドはそのこと自体を嫌っていたこと、だからこそ他のメンバーに自分が何を訴えようとしているのかを決して話さなかったこと、などを語っていることが興味深い。

Genesis Archive 1967-75 “Supper’s Ready” (1973.2.9Live)

また、初期のレインボー・シアターでのパフォーマンスの際、箱一杯にお菓子を詰めている自分のことを見て、フィルが「くそっ、どうして俺は今日来てしまったんだろう。パントマイムを演るためでなく、ミュージシャンになるためにこのバンドに参加したというのに」とこぼしたというのだから面白い。ただし、そういう厳しい状況の中にあっても自分はとにかく革新的・創造的なことを演ろうとして毎日が楽しかったと言うのである。

ピーター・ガブリエルはあのときから何も変わっていない。
前へ、前へと進もうとする姿勢、そして、常に新しものを生み出そうとする創造力。
アルバム”i/o”に底流する本質もそこにある。

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