
呼吸はあらゆる生命体の根源である。
ちなみに、人間の場合、3秒吸って5秒吐くことを自然体でできるのが理想の呼吸だと、以前教えていただいた。
大自然の運行に照準を当てる。
月齢、すなわち古の智慧たる新月と満月という節目に、自らを謙虚に振り返ること、そして世界に向けて祈りを捧げることが大切だとあらためて思う。
始まりの新月、そして円満の象徴である満月。
ピーター・ガブリエルの新作をリリースのときからずっと聴いてきた。1年と2ヶ月が経過し、意味と意義がようやく腑に落ちてきた。音楽的に傑作であることはもちろん間違いない。ただ、このアルバムが意味するところは何か?
僕はしばらく考えていた。
始まりは終わりであり、終わりはまた始まりでもある。
永遠の時間の中で、人間があえて区切りをつけた節目は、天の啓示でもあることをピーターはわかっていたのかどうなのか。
あえてプロデューサーを変え、Bright-Side MixとDark-Side Mixをセットにした気概。
その構想はすでに2002年に始まっていたというのだから驚きだ。
・Peter Gabriel:i/o (Bright-Side Mix) (2023)
多彩なPersonnelと、その多さにも驚きを隠せない(渾身のアルバムであることがこの点からも窺える)。マーク”スパイク“ステントによるミックス。




そもそもピーターがフロントマンを務めていた頃のジェネシスの、童話の世界から飛び出してきたような、高貴でありながら(ある種)エキセントリックな創造力が起点となり、特に最初の、”peter Gabriel”とタイトルされた4枚のアルバムが象徴するように、様々な音楽イディオムをとり込んだのちに、独自の世界を築き上げ、しばらく新作から遠ざかったその頂点、結論が本アルバムなのである(20年以上の歳月をかけて生み出したという点は、まるでブラームスの交響曲第1番ハ短調作品68とのようだ)。
すべてが満たされた音。
ピーターの声質はあの当時と何も変わることがない。
一層熟練された、深遠なる声は僕たちの魂までも刺激する。
素晴らしいアルバムだ。
ところで、ピーターがインタビューに答えている動画がある。
かつてのジェネシス時代のこと、自分の耳でチューニングをするのにとても時間がかかったこと、聴衆が歌手を見て、一体何が起っているのかと訝っていたこと、周囲の連中はどうしていいかわからず、うろちょろしている中で、どうすることもできず、自分は物語を語るしかなかったこと、その上で物語は登場人物になり、登場人物は衣裳になったという経緯。そして、バンドはそのこと自体を嫌っていたこと、だからこそ他のメンバーに自分が何を訴えようとしているのかを決して話さなかったこと、などを語っていることが興味深い。

また、初期のレインボー・シアターでのパフォーマンスの際、箱一杯にお菓子を詰めている自分のことを見て、フィルが「くそっ、どうして俺は今日来てしまったんだろう。パントマイムを演るためでなく、ミュージシャンになるためにこのバンドに参加したというのに」とこぼしたというのだから面白い。ただし、そういう厳しい状況の中にあっても自分はとにかく革新的・創造的なことを演ろうとして毎日が楽しかったと言うのである。
ピーター・ガブリエルはあのときから何も変わっていない。
前へ、前へと進もうとする姿勢、そして、常に新しものを生み出そうとする創造力。
アルバム”i/o”に底流する本質もそこにある。