前田朋子 バッハ:無伴奏ヴァイオリン全曲演奏会(後半)

mayeda_tomoko_bach_20131026なんと台風が逸れた。
小雨落ちる中でのバッハ・リサイタル。やっぱりバッハは水が似合う。急激に下がった外気と霧雨の風情が相まって、寒さ厳しい北ドイツの雰囲気さながらに聴く者に一期一会の厳しさを課し、同時に一期一会の喜びを与える準備が整ったかのような「場」だった。
前田朋子のバッハ無伴奏リサイタル後半。円覚寺方丈での一コマは、本尊お釈迦様像を前にして繰り広げられた。バッハを介して永久(とこしえ)の世界を垣間見る。
例によって、円覚寺教学部長朝比奈氏のご挨拶から始まる。もともとはご住職の住処であったという方丈での演奏は、聴衆の心の安らぎに必ず通じるだろうと。

会場のせいもあろう。先週の建長寺の法堂に比して音響は決して悪くない。文字通り水も滴るようなバッハ。ソナタ第1番ト短調は、前田さんが高校生の時に初めて学んだバッハだそうで、最も弾く機会の多いものでもあるのだとか。そのためか集中力に優れており、真に峻厳な世界が眼前に現れた。続くパルティータ第1番ロ短調は、彼女が今最もお気に入りのひとつらしい。楽曲が進行するにつれ音楽は一層パッショネートになり、うねる。

第8回鎌倉芸術祭2013
前田朋子 バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲演奏会(後半)
2013年10月26日(土)午後2時開演
円覚寺方丈
・ソナタ第1番ト短調BWV1001
・パルティータ第1番ロ短調BWV1002
休憩
・ソナタ第3番ハ長調BWV1005
アンコール~
・シャコンヌ~パルティータ第2番ニ短調BWV1004

バッハの音楽は敬虔で宗教心に満ちるが、決して敷居は高くなくあくまで日常とシンクロする。例えば、第1パルティータの第4曲ドゥーブルの途中で聞こえてきた上空からのヘリコプターの爆音・・・。聴き方によっては迷惑千万。しかしそのことが音楽という非日常と、それを享受するという日常とがどうにもうまくかみ合った瞬間だと僕には思えた。そう、バッハは篤いプロテスタントではあったが、宗教音楽だけでなく世俗音楽にも長けた。そこにこそ真実が在る。静寂の中で音楽を聴きたいのなら独りで聴きたまえ。人が発しようと自然が発しようとそこに在るものと同居するのが真の音楽なのだ。前半と後半、両日のバッハを聴いて僕はそう考えた。

20分の休憩後はソナタ第3番ハ長調。何と柔らかく優しい音であることか!第2曲フーガは難曲だろう。そこには小宇宙が現出する。
仏陀とイエス・キリストとの邂逅。宗教というのは一種の派閥に過ぎない。それぞれの開祖を信仰するあまり弟子たちが作ってしまった枠に過ぎない。たとえそれがどんな宗教だろうと信仰という意味では、心という意味では、同じ愛という真理に基づくものだ。
今回の試みは、いわば東西の覚者の智慧の融合のようなもの。その交わりを目の当たりにした時、僕たちが日常もつ問題などというのはあまりに小さなものだと悟ることができる。
ふと我に返った第4楽章アレグロ・アッサイ。会場が真にひとつに包まれていた瞬間。

アンコールはリクエストにより第2パルティータからシャコンヌ。先週のものより少々テンポは速めか・・・。息せき切るようなシャコンヌの前進性がとても良かった。

 


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