カラヤンのマーラー第4交響曲を聴いて思ふ

mahler_4_karajan_bpoカラヤンという音楽家は実に巧い。音楽の再生という意味でもそれを世に認知させるという意味でも。今頃になってカラヤンが気になって仕方がないというのはどういうことだ?10代の頃にいくらでも出逢い、その芸術を享受する機会はいくらでもあったはずなのに。

音楽芸術が精神性を重視するのは当然だが、カラヤンの場合はどちらかというと外側を磨き上げるところから入る。しかしそれは内面を軽視するということとは同義でない。あまりに入念に練磨され過ぎているせいで音楽が生温いもののように感じられてしまうものなのか。

あの頃、僕が最初に耳にしたマーラーは、FM放送でのカラヤンの実演による第4交響曲だった。エディット・マティスがソプラノを歌い、確かどこかで指揮者が振り間違えたことで瑕のあるという曰くつきの演奏だったと記憶する。もちろんエアチェックし繰り返し聴いた。だから、少なくとも交響曲第4番に限って僕の脳裏に刻まれるのはカラヤンの音楽なんだ。

でも僕は、その頃正規で録音された音盤は聴かなかった。ほどなく友人の薦めでブルーノ・ワルターに出逢い、マーラーはワルターだと洗脳されたものだから。以来30数年が経過する。ようやく聴いた。何というポルタメントの美しさ。そして速過ぎず遅過ぎず理想的なテンポと、いかにもカラヤンらしいディナーミクの妙味。マーラーらしくないという意見、批評も多い。しかし、「らしさ」とは誰が決めたことなのか?後世の学者や批評家がガイドラインを設けたとするならそうでないものだって「あり」ではないのか?それこそ人間の思考の産物であり、「絶対」はないのだから。

マーラー:交響曲第4番ト長調
エディット・マティス(ソプラノ)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1979.1.22-24&2.22-24録音)

随分長い間カラヤンはマーラーを無視していた。自分には合わないと決めつけていたのかどうなのか、あるいは近視眼的な見方しかできていなかったのかどうなのか。そのことは、マーラー自身によりリヒャルト・シュトラウスとの手紙のやり取りの中でいみじくも語られる。

きみは「第3シンフォニー」よりも演奏構成が小さくてすむ「第4シンフォニー」を作曲したのだってね。そのとおり、まちがいないのかね?それで、もしそのような事情だったら、11月18日のために、「第4シンフォニー」をぼくに任せてくれないかね?
(1901年7月3日付、リヒャルト・シュトラウスよりマーラーへの手紙)

「第4シンフォニー」は印刷中!でも、それまでにはスコアもほとんどできあがらないことだろうし、それにぼくは新しい作品を、ベルリンの聴衆に―近視眼的な新聞のおかげで、初めからぼくには疎遠となってしまって、ぼくのことなどなにも知らないベルリンの聴衆に―提供したくはないのだ。これは、たぶん現在の状況にいっそうふさわしいものとして、受け入れられる作品だし、恵まれた状態のもとで偏見もなく、愛情豊かに取り上げられれば、唯一の報酬―聴かれもし、理解されもするという唯一の報酬、ぼくが自分の創造活動から得ようとしている唯一の報酬、そういう報酬をぼくに生み出してくれる最初の作品なのだ。
(1901年7月6日付、マーラーよりシュトラウスへの手紙)

マーラーは第4交響曲に、そしてそのポピュラリティに相当な自信を持っていたようだ。それゆえにこそ初演には慎重だった(結局初演は1901年11月25日、ミュンヘンにてマーラー自身の指揮により行われた)。
初演から78年の時を超え、第4交響曲はまさにそのベルリンにてカラヤンにより「恵まれた状態のもとで偏見もなく、愛情豊かに取り上げられ、受け入れられた」。

きみは、相変わらず頑固だね!・・・(中略)・・・ぼくは「第4シンフォニー」をお願いしたが、それは初演の名誉を得るためのぼくの虚栄心からではないのだと、きみは信じてくれるだろうね。・・・(中略)・・・ぼくはきみの「第4シンフォニー」をやってみたいのだ。というのも、ぼくにとって、なによりも肝心なことは、きみの意向どおりに演奏することだからなのだ。
(1901年7月10日付、シュトラウスよりマーラーへの手紙)

シュトラウスの弁解が可愛らしい・・・。
第3楽章の天国的な美しさには目を見張るものがある。それにしても終楽章におけるマティスの歌唱は驚異的に巧い。

※太字は「マーラーとシュトラウス―ある世紀末の対話・往復書簡集1888~1911」より引用

 


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