終始静寂の中にある音楽に夜を想う。一挺のヴァイオリンと大管弦楽が織り成す「小夜曲」。
わずか10分にも満たない楽音が魂を揺さぶる。ヴァイオリン弾きであったジャン・シベリウスの本領発揮とでもいうのか。1910年代に生み出されたヴァイオリンを伴う管弦楽作品群の凝縮美に舌を巻く。しかしながら、現実にはほとんど無視されているところが痛い。
傑作ヴァイオリン協奏曲を聴いて、癒された。
湿気の多い蒸し暑い雨の日にほとんど冷房代わりになると思った。
そして、第1楽章冒頭のヴァイオリン独奏の研ぎ澄まされた強烈な主張に釘付けになった。
オーケストラによる主題提示に震えた。
いま一つだった初演から大幅に改訂が加えられた最終稿は、どの瞬間を切り取っても意味深い。
「セレナード」と「ユモレスク」。
あくまで付録だと思っていた。言葉に表し難い「音のタペストリー」。
そういうものこそが真に心を捉える。
シベリウス:
・ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47
・ヴァイオリンと管弦楽のための2つのセレナード作品69
・ヴァイオリンと管弦楽のための4つのユモレスク~第1曲ニ短調作品87-1
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
アンドレ・プレヴィン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1995.5録音)
第1番ニ長調作品69a冒頭の撫でるような木管の音色からして優しい。続く、ヴァイオリンの繊細な響きに感動し、一瞬訪れる管弦楽による激しい音楽にひれ伏すも、再び垣間見る静寂に涙する。そして、第2番ト短調作品69b冒頭、独奏ヴァイオリンがいきなり泣く。中間部の舞踏も心なしか哀しい。48歳のシベリウスは当時何を想ったのか・・・。
1917年作曲の「4つのユモレスク」から第1曲は実に愛らしい小品。その名の通り可憐で愉悦的な旋律に溢れ、心躍る。
さて、協奏曲に話を戻すと・・・、何と繊細で崇高な第2楽章アダージョ・ディ・モルト!!ここは真骨頂!!ムターの音色は昔から豊饒で柔らかだが、その質感が実にうまく管弦楽と融和し、シベリウスの心象風景を見事に描き上げる。まさに「大自然への喜びの讃歌」といえまいか・・・。さらに、活気に満ちた躍動的な人々の解放を表すかの如くの終楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポにはヴィルトゥオーゾ的余裕が宿る。31歳のムターの堂々たる風格と、プレヴィン率いるシュターツカペレ・ドレスデンの重厚で安定した交響に思わず笑みがこぼれる。
そういえば本日は6月9日。作品69に心動かされたという不思議な一致・・・(笑)