サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団2015年日本公演

salonen_philharmonia_20150305135満月の夜に相応しい、余分なものが削ぎ落とされた現代的パフォーマンス。身体と心と、そして魂とが連動し、古の音楽を颯爽と奏でる。ブラームスの第2楽章アダージョとアンコールの「悲しきワルツ」では、サロネンは棒を置いて指揮をした。彼の両手から紡ぎ出される音楽の、何というたおやかさ、そして優美さ。柔らかい曲線的響きに溢れ、棒を持って指揮した時の、直線的で豪快な音調との対比に心奪われる。

エサ=ペッカ・サロネンの実演を聴いて思った。
さすがに作曲家を本業とするだけあり、楽譜の読みは超一流。そして、流れる「自然体」の音楽に過去の傑作が今まさにそこで生み出されるかのように創造されるという粋。見事だった。

「フィンランディア」の前進性と激しい闘争の爆発力。中間の「讃歌」の部分における木管の歌の、続く弦楽器の歌の優しさ、そして切なさ。いかにも即物的な外観を持つサロネンの音楽の内側には熱き浪漫と感情に満ちる。

フィルハーモニア管弦楽団2015年日本公演
2015年3月5日(木)19時開演
川口リリアホール
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団
・シベリウス:交響詩「フィンランディア」作品26
・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77
~アンコール
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ長調BWV1006~ジーグ
休憩
・ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
~アンコール
・シベリウス:悲しきワルツ作品44-1

ヒラリー・ハーンのヴァイオリンは繊細でありながら、芯のしっかりした図太い音。やはりサロネンの前のめりの音楽にぴったりと寄り添うように奏でられるヴァイオリンの音は、オーケストラとのバランスも抜群で、ブラームスの書いた旋律がこれほど明確に聴き取れたのは驚異的だと思った(もちろんホールの音響効果のせいもあろうが)。何よりヨアヒム作のカデンツァの素晴らしさ。テンポが揺れ、実に浪漫的なフレージング。そして絶妙なアゴーギク。ここを聴くだけでも来た甲斐はあったのかも。
そして、第2楽章アダージョでは、極めて現代的な色合いの中にふと浮かび上がるブラームスの侘び寂に感涙。ハーンの音が大きくうねり、泣く。
終楽章アレグロ・ジョコーソ、マ・ノン・トロッポ・ヴィヴァーチェでの、サロネンの再び指揮棒を持っての輪舞。ここでもハーンのカデンツァが踊る。オーソドックスな造形の中に見える圧倒的な存在感と音楽の喜び。素晴らしかった。
アンコールのバッハのパルティータも心底美しかった。

20分の休憩を挟んでの後半は、「エロイカ」交響曲。
ブラームスでは正面に位置していたティンパニが上手奥に移動。颯爽と流れるサロネンの「エロイカ」は楽聖ベートーヴェンの青春の闘争だ。第1楽章アレグロ・コン・ブリオの提示部反復なしの解釈に心の中で拍手喝采。展開部後半の流線型の弦の旋律に脱帽。白眉は再現部以降の怒涛の歓喜と雄叫び。コーダでの一切の解放に心躍る。
第2楽章「葬送行進曲」は粘り気なしのいかにも爽やかな表現だが、主部の再現における弦楽器のあまりに立体的な響きに卒倒。サロネンは手綱を緩めず、音楽はとことん前のめりに進みゆく。
第3楽章スケルツォを経て、終楽章アレグロ・モルトの各々の変奏曲のわずかな音調の変化の妙に舌を巻く。特に後半、第8変奏以降の強烈な咆哮であるにもかかわらず、その有機的な音楽に感動。また、楽天的な旋律が、先の闘争を終わらせ、心と魂の浄化を表現するかのように閉じられるコーダの天国的響きにも感服。素晴らしいひと時だった。
ちなみに、アンコールで徐に奏されたシベリウスの「悲しきワルツ」は、本当に悲しかった。

 

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3 COMMENTS

渡辺

渡辺です。

私も昨夜の公演を聴いていました。
「フィンランディア」と「エロイカ」を同時に聴けるプログラムは川口だけだったので。

全体を通して深い感銘を受けた演奏会でした。
なお、対抗配置ではない弦楽器の並びで聴くのは久しぶりで、音の響きが新鮮に感じました。

個人的にはハーンのアンコールが印象的でした。
まだ若いのにあの表現力は凄いですね。

それにしても、会場でお会いすることができなかったのが残念です。

それでは、また。

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岡本 浩和

>渡辺さん
こんばんは。ご無沙汰しております。コメントをありがとうございます。
会場にいらしたんですね!お会いできなかったこと残念です。
それにしてもサロネンは素晴らしかったですね。
おっしゃる通りハーンのアンコールにも心動かされました。
またよろしくお願いします。

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