ウゴルスキのブラームス作品1&2(1996録音)を聴いて思ふ

brahms_sonatas_ugorski304出逢いと別れと、そして引き合いとすれ違いと、男と女の間の諸々は真に面白い。
ヨハネス・ブラームスは、シューマン家を初めて訪れたとき、果たしてクララに恋心に近い何かを抱いたのかどうなのか、それはわからないけれど、他の女性にはない魅力を感じただろうことは確かだ。最初のソナタの光り輝かんばかりの冒頭を聴いただけでそのことはわかる。もちろん本人は無意識だと思う。

少なくとも最初の頃の手紙は、作曲家としての道を開いてもらった師ロベルトへの尊敬と感謝の言葉で溢れる。

ライプツィヒで期待以上の、ことに僕の価値以上の温かい歓迎を受けたのは、先生のご推薦のおかげです。ヘルテル社は僕の最初の作品を喜んで出版する用意があると言明しました。作品5のピアノとヴァイオリンソナタイ短調(作品5の最初の構想)と、作品6の「6つの歌曲」はゼンフ氏に委託しました。
作品2に先生の奥様のお名を掲げさせていただいたことをお許しくださいましょうか?失礼とは思いますが、僕の尊敬と感謝のささやかなしるしを捧げたいのです。
(1853年11月29日付、ヨハネスよりロベルトへ)
ベルトルト・リッツマン編/原田光子編訳「クララ・シューマン×ヨハネス・ブラームス友情の書簡」(みすず書房)P10

ハ長調ソナタ、喜びの第1楽章アレグロ。自信に満ちたこの音楽をウゴルスキは激烈な打鍵を伴う優しいピアノで巧みに表現する。静寂と轟音が入り交じるブラームスの充実度。
第2楽章アンダンテの祈りの美しさ。そして、第3楽章のスケルツォの、いかにもブラームス的節回しに、この人の天才は既に20歳の時に花開いていたことを知る(トリオの流麗な旋律美!)。
さらに、終楽章アレグロ・コン・フオーコの劇的主題と平穏な副主題の対比に、ブラームスの内側にある男性的なるものと女性的なるものを思う。それにしてもウゴルスキの音楽しか感じさせない表現力に舌を巻く。

ブラームス:
・ピアノ・ソナタ第1番ハ長調作品1
・ピアノ・ソナタ第2番嬰へ短調作品2
・左手のためのシャコンヌ(J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータニ短調BWV1004による)
アナトール・ウゴルスキ(ピアノ)(1996.4.&6録音)

何と個性的なブラームス!クララに捧げられた嬰へ短調ソナタ、第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ・マ・エネルジコにおいても激情と安らぎの双方が見事に刻印される。
第2楽章アンダンテ・コン・エスプレッシオーネはブラームス得意の変奏曲だが、ここではブラームスの内にある哀しみの表情が滲み出るようで、これほど感情を揺さぶられる音楽はない。
第3楽章スケルツォを経て、終楽章序奏ソステヌートの厳粛さ、そして主部アレグロ・ノン・トロッポ・エ・ルバートの静かに内燃する表情に若きブラームスの気概と希望とを垣間見る。

2つのソナタには、ブラームスの自信とシューマン夫妻への尊敬と感謝の念が刻まれる。
ウゴルスキの録音がしばらく途切れていることが残念でならない。
来日公演がしばらくないことについても然り。

 

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2 COMMENTS

小平 聡

久しぶりにコメントします。
この人いまどうしているんでしょうね。このブラームスも先のムソルグスキーも、それにベートーヴェンのop.111(一緒に入っていたバガテルも)、ウゴルスキというピアニストを忘れられないひとりとして焼きつけてくれました。一度でもナマで聴きたいものです。

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岡本 浩和

>小平聡様
DG専属だった頃は飛ぶ鳥を落とす勢いだったですよね。
おっしゃるように、ベートーヴェンの作品111&バガテル(ディアベリも)なんて最高でした。
数年前にマイナーレーベルからスクリャービンの全集が出たっきりですが、僕も実演には触れられていないのでとにかく一度聴いてみたいとずっと思っております。

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