バーンスタイン指揮バイエルン放送響のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(1981Live)を聴いて思ふ

wagner_tristan_bernstein318今ある世界は幻想だといわれる。
確かにこの世が幻で、あの世が真実なのだろうと思う瞬間多々。
とはいえ、現世に生きる僕たちは逃避することなく今のこの身で勝負することが大切。

夢か現か・・・。
「トリスタンとイゾルデ」第3幕第1場の、テノール殺しとも言われるトリスタンの長いモノローグ。呼吸深く徐々にクレッシェンドしてゆくこの音楽のうねりは、まさにリヒャルト・ワーグナーの真骨頂であり、これほどに聴く者にエネルギーを強い、しかも名演奏ともなれば究極的な感動を喚起する場面はそうそうにない。

レナード・バーンスタインが演奏会形式で披露したこの楽劇の録音は、発表当時相当な賞賛を持って迎えられたものだけれど、現代の評価はどうなのだろうか?
あまりに遅いテンポに辟易とする人は多いのかもしれないが、しかし「幻と現実」の狭間を行き来するトリスタンの無意識の意識や、内なる純愛を表出しようと死を選ぶイゾルデの思考を的確に表現するのに、このまるで間延びするかのようでしないギリギリのテンポによる音楽の流れこそが最高に相応しいのだと久しぶりに耳にして思った。

おれが行ってきたところは
おれが昔からいたところで、
そこへおれはまたいずれ帰っていくのだ、
世界の夜という
広い国だ。
その国でわれわれが知ることができるのは、
ただこういうことだけだ。
神々しくも永遠な
太源からの忘却だ!
名作オペラブックス7「トリスタンとイゾルデ」(音楽之友社)P143

ペーター・ホフマンの伸びのある明朗で美しい歌声に痺れる。一方で、嵐のような激情を表現するオーケストラ伴奏の素晴らしさ。真にバーンスタインは天才なり。
そして、第2場のイゾルデの叫び。

おそろしい昼の日の数々を、イゾルデが
あこがれのうちに目ざめつづけていたのも、
ほんのひとときでも
あなたと一緒に目ざめのときをもちたかったからよ。
イゾルデをだますの?
~同上書P165

ヒルデガルト・ベーレンスの、奥深く色気のある声に涙する。
トリスタンを想うイゾルデの心情が実に見事に表現された独白。

・ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」
ペーター・ホフマン(トリスタン、テノール)
ヒルデガルト・ベーレンス(イゾルデ、ソプラノ)
イヴォンヌ・ミントン(ブランゲーネ、メゾソプラノ)
ベルント・ヴァイクル(クルヴェナール、バリトン)
ハンス・ゾーティン(マルケ王、バス)
ヘリベルト・シュタインバッハ(メロート、テノール)
ハインツ・ツェドニク(牧童、テノール)
トマス・モーザー(水夫、テノール)
ライムント・グルムバッハ(舵手、バリトン)
バイエルン放送合唱団
レナード・バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団(1981.2, 4 &11Live)

最晩年のカール・ベームが絶賛したらしいこの演奏の白眉は間違いなく第3幕。特に、当時を代表する2人のワーグナー歌手の、ほとんど無意識に交わる一体感は全盛期のバイロイトを思わせる素晴らしさ。
何より、徐に静かに消えゆく「イゾルデの愛の死」は、美しくも哀しい。

波うつ潮の中に、
世界の息の
かよう万有の中に、
おぼれ、
沈んで、
われを忘れる、
おお、この上ないよろこび!
~同上書P177

死をもって世界と一体になる喜びを歌うベーレンスの声の崇高さ。
そして、純白のトリスタンと透明なイゾルデが交わる瞬間の尊さ。

 

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3 COMMENTS

小平 聡

この演奏はいいですね。3幕のみならず1幕からバーンスタインの音楽に向き合う主役ふたりがすばらしい。
たぶん一幕ずつの演奏会だからこそできた演奏であって、実際の舞台でこの調子で歌っていてはふたりとも終幕まで声が持たなかったでしょうし、バーンスタインも舞台でこのテンポはとらなかったのでは・・・
歌手生命が長くなかったペーター・ホフマンですが、その最良の歌が記録された一曲だと思います。

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岡本 浩和

>小平聡様
ホフマンもベーレンスも素晴らしいですよね!
おっしゃるように一幕毎の演奏会形式だったから成し得た名演奏なのだと僕も思います。
バーンスタインには他の楽劇の録音も残してほしかったとつくづく思います。
特に「パルジファル」!!

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