「幸せ」のストラヴィンスキー

stravinsky_askenazy_mustonen.jpg昨日から三宅麻美のショスタコーヴィチを繰り返し聴いているが、作曲者のすべてがそこに詰まっているようで、深過ぎてそう簡単に自分のものにはできそうにない。おそらく一生かけて学習していかなければならない宇宙規模の曲集だと思うが、1曲1曲が性格を異にし、繊細で祈りに満ち、一方人間的な泥臭さを表出するシーンもあり、何度聴いても飽きない。これは「ながら」聴きじゃなくて、真剣にどっぷりと音に浸りながら拝聴すべき音楽だろうから、もう少し時間の許す時にじっくりと聴いてみようとあらためて思った。

ところで、今年はやけに亡くなる人が多い。もちろん毎日のように人は亡くなるわけだから気のせいもあろうが、今の時期例年以上に喪中葉書が届く。愛好する音楽の世界でもいつもの年以上にどうやら多いように感じるが(まぁ、僕が興味を持っている音楽家で亡くなる人が偶然多いだけなのかもしれないが)。ただし、皆さん相応のお歳で、人生を全うして旅立たれているようだからそれはそれで目出度いことと言ったら罰が当たるかな・・・。

人生いろんな時期がある。良い時も悪い時もあるが、ひょっとするとそのこと自体「幻想」かもしれない。「幸せ」を計る物差しはひとつでないから。不幸に感
じたり、幸せに感じるのは得てして誰かと比べる時。山もあり谷もある、そういう当たり前のことを当たり前のように考えられれば楽になれよう。

「幸せ」を感じられるおススメの音盤。れっきとしたクラシック音楽だが、ジャズに真正面から向き合っている20世紀の傑作たち。

ストラヴィンスキー:
・ピアノと管楽器のための協奏曲
・エボニー協奏曲
・ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ
・ピアノと管弦楽のためのムーヴメンツ
オリ・ムストネン(ピアノ)
ディミトリ・アシュケナージ(クラリネット)
ウラディーミル・アシュケナージ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団

新古典主義時代の2曲にはさまれた、ほとんどジャズと解してもよいと思われる「エボニー・コンチェルト」。そして、晩年になって12音技法をとりいれた「ムーヴメンツ」。カメレオンのような変幻自在さをもつストラヴィンスキーの面目躍如たる粋な音楽たちがこうやって並べられるだけで楽しくなってくる。

菊地成孔氏の著作でジャズのことを少々勉強したお陰で、ストラヴィンスキーのこのあたりの音楽も非常に面白く聴ける。特に、「エボニー協奏曲」では、息子のディミトリとの協演を果たすアシュケナージの極めて真面目で踏み外しのない几帳面な演奏が聴け、ジャズっぽくありながらやっぱりこれはクラシック音楽なんだと再確認させられるところが残念なような嬉しいような・・・。


4 COMMENTS

雅之

こんばんは。
>人生いろんな時期がある。良い時も悪い時もあるが、ひょっとするとそのこと自体「幻想」かもしれない。「幸せ」を計る物差しはひとつでないから。不幸に感じたり、幸せに感じるのは得てして誰かと比べる時。山もあり谷もある、そういう当たり前のことを当たり前のように考えられれば楽になれよう。
先日喫茶店で人を待つ間、店内に置いてある新聞に目を通していたら、ある本についてのレビューが目に留まりました。さっそく夕方書店で、その本を購入し、今読んでいるところなんですが、私の苦手な楽観主義にもかかわらず強い説得力があり、これがじつに面白いんです。この本、岡本さん向きかも(笑)。
「繁栄―明日を切り拓くための人類10万年史」(上・下) [著]マット・リドレー [訳]大田直子、鍛原多恵子、柴田裕之 出版社:早川書房  
そのブック・レビューを紹介します。
[評者]辻篤子
[掲載]朝日新聞 2010年12月5日
■合理的楽観主義で「世界はよくなる」
 「もっと気楽に考えようよ。世界はよくなっていくんだから」
 ぽんと背中をたたかれて、こういわれたような気になる。
 原題は「合理的な楽観主義者」、その副題は「繁栄はいかに進化するか」である。人類はかつてないほどの繁栄の時代を迎えており、将来も楽観していい。それには合理的な理由がある、というのである。
 「前例のない経済的悲観主義の時代」と著者がいう現在、楽観主義が入り込むのは容易ではない。楽観論を口にするのは、インテリにとって危険ですらある。かなりの勇気を要することといっていい。
 それに挑んだ著者は、最新の生物学を通して人間を考える著作で定評のある科学ジャーナリストである。人間だけがなぜ、自らの生き方をこんなにも激しく変え続けることができたのか。本書は数多くの研究成果やデータをもとに再構成された壮大な人類史である。
 かぎは、「交換」とそれによる「専門化」にあるという。有史以前のある時点で、食物と道具など物の交換が始まり、人間は「分業」を発見した。それぞれが得意なことに集中して専門化が進み、その結果、イノベーションが促されて繁栄がもたらされた、とする。
 自給自足だと、道具から食物まですべて自分でこなさねばならず、それだけでかなりの時間がつぶれてしまう。分業すればするほど、時間の節約につながる。繁栄とは、端的にいえば節約できた時間だという。
 たとえば、この200年を見ても、世界の人口は6倍に増え、寿命は2倍以上に延び、子どもの死亡率が下がり、病気や災害で死ぬ可能性も低くなった。人々の暮らしは確実に便利で安全になった。
 人間はとかく悲観的になりがちだ。飢餓が心配されたが、食糧増産が実現した。人口爆発もいわれたが、増加率は鈍っている。結局、悲観的な予測はことごとくはずれてきたのではないか、というわけだ。
 人間の創造性には限りがなく、イノベーションの炎は消えない。とりわけ、ネットワーク化された世界においては。根底にある確信だ。
 従って、人類が直面する数々の課題、とりわけ気候変動やアフリカの貧困という難題も、解決できない道理はないとする。
 現実的な立場からは大いに異論があるところかもしれない。人間の活動は今度こそ、限界を超えようとしているのではないかと。
 むろん、著者も手放しで楽観しているわけではない。
 人類史をたどれば、停滞も後退もあったし、イノベーションはいつでもどこでも起きるわけではないことがよくわかる。だからこそ、交換と専門化を妨げず、アイデアの交換を活発にして変化を促すようにすることが何より大切なのだ。
 「あえて楽観主義でいようではないか」。最後はこう結ばれる。
 新しい年に向けて、前に進むための議論のきっかけにしたい一冊だ。
公開サイト asahi.com より
http://book.asahi.com/review/TKY201012070102.html 
「分業すればするほど、時間の節約につながる。繁栄とは、端的にいえば節約できた時間だという。」
「アイデアの交換を活発にして変化を促すようにすることが何より大切なのだ。」
私が共感したのは、この部分です。
ご紹介の盤は未聴ですが、これは楽しそう!! 特にムストネンは注目していて好きなピアニストですし、曲目もまだじっくり聴いたことがないのですが、今の私にとりましてはとても面白そうなので、さっそく入手します。よい情報、本日もありがとうございます。
お互いアイデアの交換を活発にして、よりよい変化を促すようにしたいものですね。
これからも情報交換、よろしくお願いいたします。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ご紹介の書籍、面白そうですね。
書評を読むとますます読みたくなります。早速僕も読んでみます。ありがとうございます。
「交換と専門化を妨げず、アイデアの交換を活発にして変化を促すようにすることが何より大切なのだ。」
この部分、特に身に染みます。どちらかというと僕は自分の考えに固執してしまって、このあたりが下手なもので・・・。
こちらこそ、毎々新しい気づき・発見のきっかけをいただき感謝しております。

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ふみ

こんばんは。
>雅之様
雅之様ご紹介の文章、大変素晴らしいですね。昨今の世界中に蔓延している悲観主義を吹き飛ばすかのような力強さがありますね。この本、僕もちょっと読んでみます。生きる勇気や元気が湧いてきそう。

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