岩城宏之指揮アンサンブル金沢の武満徹「弦楽のためのレクイエム」ほか(1996.9録音)を聴いて思ふ

messages_for_the_21st_century_takemitsu753水、風、土、そして光。自然と一体になるのが武満徹の音楽だ。
瀧口修造の言葉が的を射る。

とはいえ、私はあの大気に融けてゆくような、あらぬ空間を流れる澄んだ音の歩みは何だろう、としばしば聴き惚れることも否めない。澄むというのも実に曖昧な言葉だが。ではその音は何か私には危い問いしかない。
武満徹のシルエットが鮮やかに浮かんでくるのはそのような時である。「古」と「新」とのあいだに未知をもとめることを決意している彼は、確実に自分の道を見つけるだろう。
武満徹は秋の庭に何を聴き、何を植えるのだろう。
「音は時間を歩行しているからいつも新しい容貌でわれわれの傍にいる。」武満徹
秋は来るや否や過ぎる。庭と外。歌と歌うこと。音の道、道の音・・・
すべて、言葉のパズルを解き放つことが待っている。
(1973年10月国立劇場第15回雅楽公演プログラム)
齋藤愼爾・武満眞樹編集「武満徹の世界」(集英社)P57

いつ何時も新しい音楽は、確かに僕たちの胸に迫る。
例えば、懐かしさと不安の念が錯綜する、ひとりの詩人が亡命地イタリアで故郷を思う、アンドレイ・タルコフスキーの「ノスタルジア」に触発された音楽の「無常」の快感。時は否応なしに流れるのだ。
ちなみに、武満徹の魅力は、音楽だけでなくその言語センスにある。それは僕の憧れ。1964年、まさに僕が生まれた年にハワイのワイキキ・ビーチで武満が見た光景。その景色を見事に言葉にする彼の天才。

太平洋上の中央に位置するハワイへ招かれたことは、いま思えば、なにやら象徴的な意味合いを感じないでもない。だが、夕暮れの海浜に立ち、夜に溶ける茫洋とした海を眺めていたら、西も東も、そんなことはもうどうでもいいことに思えた。西が新しくもなければ、東がまた古いとも言えない。英語のニュース(NEWS)という語が、四つの方位のイニシャルで出来ているのは、面白い暗合だ。そこで、ワイキキ浜での印象を、英文の句に詠んでみた。

E’en, See Sea SEe…sense…esSeNSe…
(夕暮れに、海を眺めて、本質を感じる。西(W)も東(E)もあるものか。)
「西も東もない、海を泳ぐ」
「武満徹著作集3」(新潮社)P79

感動的巧みさ。筆舌に尽くし難い。

21世紀へのメッセージVol.4
武満徹:
・弦楽のためのレクイエム(1957)
・地平線のドーリア(1966)
・ノスタルジア―アンドレイ・タルコフスキーの追憶に―(1987)
・ファンタズマ/カントスⅡ(1994)
・ハウ・スロー・ザ・ウィンド(1991)
堀正文(ヴァイオリン)
クリスティアン・リンドバーグ(トロンボーン)
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(1996.9録音)

「弦楽のためのレクイエム」の、マーラーの「大地の歌」のフレーズ「生は暗く、死もまた暗い」を弦楽合奏で表現したような「喜び」。作曲者は次のように解説する。

言うなれば、One by Oneのリズムの上に曲は構成されています。はじめもおわりもさだかでない、人間とこの世界をつらぬいている音の河の流れの或る部分を、偶然にとり出したものだといったら、この作品の性格を端的にあかしたことになります。
PROC-1947/50ライナーノーツ

確かに「はじめもおわりもさだかでない」音調が極めて美しく、聴く者をそそる。
続く、クーセヴィツキー財団の委嘱による「地平線のドーリア」の憂愁。点描的に映される音の風景には、若き武満の気概が満ちる。
そして、地から湧き、天から堕ちるクリスティアン・リンドバーグのトロンボーンを据えた「ファンタズマ/カントスⅡ」を経て、「ハウ・スロー・ザ・ウィンド」の、それこそ「あらぬ空間を流れる澄んだ音の歩み」に感動。

東洋と西洋の統一を音楽で試みようとした武満徹の夢は果たして叶うのだろうか?

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村


2 COMMENTS

雅之

>東洋と西洋の統一を音楽で試みようとした武満徹の夢は果たして叶うのだろうか?

私は、以前から極めて具体的で実現可能な妙案を持っています。南極点にコンサートホールを建設し武満徹の曲を演奏するのです。

南極点から石をどの方向に投げても石は北に向かうように、南極点から発する音楽は、東も西も南もなく、全ての音が北に向かうのです(笑)。

http://www.nipr.ac.jp/jare/research/cooperation.html

返信する
岡本 浩和

>雅之様

何という妙案!!確かに実現可能です。誰かやらないかなぁ・・・。
とはいえ、聴きに行きたくても行けないですが。(笑)

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む