セミナーから一夜明けて、たくさんの方々から「感謝の念」を綴ったメールをいただいた。
人って決して独りで生きているわけではない。
それに独りで生きられるわけもない。
自分が今こうやって元気にいられるのもこれまで支えていただけた周りの全ての人たちのお陰であり、そういう感謝の気持ちを忘れちゃいけないなとあらためて感じた。
ところで、「何をしたいのか」わからないと悩む若者が多い。昨日もお話しをさせていただいたが、「何をしたいのか」を考え続けても答は決して出ないだろう。そんなことはわかるはずがない。社会を知らない学生の頃などは当然。40歳を超えた今でも「何をしたいのか」という問いに対して明確な答は厳密には得られない。「何をしたいのか」を考えるのでなく、「自分に何ができるのか?」、「自分のできることで何をすれば人様に喜んでいただけるのか?」という問いかけの中にこそ答は見つかるものだ。
だって、人間は結局「できること」しかできないのだから・・・。
ピアノができる人はピアノによって人を楽しませることができる。サッカーができる人はサッカーで皆に喜んでもらえば良い。人により一層喜んでいただくにはどうすればいいのかを日々考え尽くし、具体的に行動を起こせば良いだけ。
バッハの2つのヴァイオリンのための協奏曲。最近は滅多に聴かなくなったが、この音楽を聴くたびにどういうわけか人と人との関係性の大切さについて思いが過ぎる。そして、「独りで生きているわけではないんだ」ということを強く感じさせられる。そう、人と人が絡み合い、ひとつのものを作り出すことの素晴らしさを教えてくれるのだ。
J.S.バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043
ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
ルドルフ・バウムガルトナー(ヴァイオリン&指揮)
ルツェルン祝祭弦楽合奏団
時に激しくぶつかり合い、時にお互い寄り添いながら一直線に時間が流れてゆく。ルツェルン祝祭弦楽合奏団を創設したシュナイダーハンとバウムガルトナーの2本のヴァイオリンが織り成す調べは、友の存在の大切さを教えてくれる大いなる力に漲っている。モノラル期最後期ながら、音は瑞々しく、これほど情感豊かな音楽性満点の録音は珍しいのでは・・・。解説によると、二人の使用楽器はいずれもストラディヴァリウス・クレモナらしいが、シュナイダーハンのものが1727年製、バウムガルトナーが1717年製だということだ。名器を携えて、二人の名手がバッハの音楽を通じてコミュニケートする様は、まるで恋人の戯れのようである。涙が出るほど美しい。
余談だが、昼時、たまたまテレビをつけたら高嶋ちさ子さんが愛器ストラディヴァリウス(1736年製)を抱え出演されていた。さすがにストラディヴァリウスの響きは芯がしっかりしていて、かつ豊潤である。何でも時価5億円なんだとか。通常は企業の所有するヴァイオリンをレンタルするというのが一般的なのだが、彼女は自前で購入したのだと。金持ち・・・。
おはようございます。
『これ1冊ですべて分かる 弦楽器のしくみとメンテナンス―マイスターのQ&A』(佐々木 朗:著 音楽之友社)
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%93%E3%82%8C1%E5%86%8A%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%A6%E5%88%86%E3%81%8B%E3%82%8B-%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%99%A8%E3%81%AE%E3%81%97%E3%81%8F%E3%81%BF%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9%E2%80%95%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AEQ-%E4%BD%90%E3%80%85%E6%9C%A8-%E6%9C%97/dp/4276124573/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1246917385&sr=1-1
は、弦楽器を演奏しないクラシック音楽ファンにも、ぜひ読んでいただきたい名著です。
この本を読むと、ヴァイオリンの名器信仰が、いかに外国の楽器商による、非科学的で捏造された霊感商法に近いものであるかが、よく理解できるでしょう。ストラディヴァリウスが歴史的価値の高い名器であることには間違いありませんが、現代のより高度な技術で作られたヴァイオリンがストラディヴァリウスに性能で劣るわけでは決してないと私も思います。
それに、楽器製作者ストラディヴァリは、ピリオド奏法(これの現代の学説の常識も、いつも言うように噴飯ものなんですが・・・)を想定し、現代のコンサートホールの音響で鳴らすことは考慮していないのですから、その意味でも過度な名器信仰は、まったくナンセンスです。
少なくとも時価5億円の楽器というだけで有り難がるのは、ピアニストのフジコ・ヘミングや辻井伸行の奏でる音楽をしっかり聴かずに、ただ話題性だけに踊らされる田舎者と同じくらいダサい行為だと思います。
私が実演を何度も聴き、その音楽性を最も高く評価している、現代のトップ・グループのヴァイオリニストのひとり、クリスティアン・テツラフは、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%86%E3%83%84%E3%83%A9%E3%83%95
当初はストラディヴァリウスを使用していましたが、現在はドイツの若手弦楽器製作者、シュテファン・ペーター・グライナーの1999年製のヴァイオリンを使用しています。
「10年も経っていますから新しくはないですよ(笑)。これはとても力強い音が出る、素晴らしいサウンドを持った楽器です。私にとっては、良い音さえ出れば、300年でも10年でも、どちらでもいいことです」(テツラフ 「ぶらあぼ」 2009年7月号 13ページより)
うん、正しいし、カッコいい!!
最初にご紹介した本から・・・。
・・・・・・一般的に音響研究は、現時点におけるヴァイオリンを研究します。これを「3次元」として考えるならば、ヴァイオリンはさらに時間軸(過去からの流れと、未来に向かっての性能特性)を考慮した「4次元」として性能を考えなければなりません。この考え方は「音響研究」としては間違った考え方ですが、ヴァイオリンという楽器を考える上ではとても重要なのです。
(中略)
試しに一つ命題を書いてみましょう。「今は最高のヴァイオリンだが、明日には壊れてしまうヴァイオリン。これは良いヴァイオリンなのか、そうでないのか?」この命題は非常に大切です。すなわち、時間軸を含んでいるのです。
この様な考え方を考慮すると、ヴァイオリンの科学的な研究はさらに複雑になってきます。・・・・・・(20ページより)
>雅之様
おはようございます。
貴重なご意見、ご教示ありがとうございます。
なるほど、確かにおっしゃるとおりですね。ただ、ストラディヴァリウスだというだけで、何億もする楽器だというだけで、信仰するのはまったくナンセンスですね。よく正月に放送される「一流芸能人云々」という番組で、何億もする楽器の音色と数重万円の楽器の音色を比べてどっちが高価かを聴き当てるのあるじゃないですか?!ほとんど当てられないですもんね。ましてやテレビで聴いている限りではまったくわかりません(笑)。
>ヴァイオリンはさらに時間軸(過去からの流れと、未来に向かっての性能特性)を考慮した「4次元」として性能を考えなければなりません。
それに、ご紹介いただいた書籍からの抜粋は非常に興味深いです。こういう考え方は僕の頭の中には今までありませんでした。
ちなみに、シュナイダーハン&バウムガルトナーの音はほんとに美しいですよ。まぁ、彼らの場合はストラディヴァリウスでなくても美しい音を奏でられるんでしょうけど。
>ちなみに、シュナイダーハン&バウムガルトナーの音はほんとに美しいですよ。
あっ、ご紹介の盤の素晴らしさについては当然だと思いましたので、コメントしませんでした。バウムガルトナー&ルツェルンは、ブランデンブルク協奏曲の旧盤も大好きです。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2605275
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2605276
ここでのシュナイダーハンのヴァイオリンも最高ですね!
>雅之様
>ご紹介の盤の素晴らしさについては当然だと思いましたので、コメントしませんでした。
そうでしたか、すいません・・・。
>ブランデンブルク協奏曲の旧盤も大好きです
最高ですね、これは。