Jeff Beck “Blow By Blow” (1975)ほかを聴いて思ふ

ポップ・ミュージックにおいては、確かに限界はない。それがすばらしい点なのだが。私たちは音楽という色の、無限のパレットを持っているのである。私たちは、「これはスタジオのヴァイオリン・セクションのような音でなければならない」とか、「背景にはっきりと第五フレンチ・ホルンが聴こえなければだめだ」などという必要はないのである。私たちは抽象的な音に取り組んでいるのだ。最も心地好い効果を得るために、どんなことでも思いのままにできる。
ジョージ・マーティン/吉成伸幸・一色真由美訳「ザ・ビートルズ・サウンドを創った男―耳こそはすべて―」(河出書房新社)P101

これはジョージ・マーティンの言葉だが、決して高邁な視点でのものではない。彼が、ビートルズを発見したのも、こういう考えがあったからであり、また、優れたものをかぎ分ける耳があったからこそ。

まるで一目惚れだった。誇張のように聞こえるかもしれないが、事実、彼らを一目見ることで話は決まった。私はアビイ・ロードの第三スタジオで彼ら四人―ジョン、ポール、ジョージ、それに当時彼らのドラマーだったピート・ベストに会った。そこでテストが行われることになっていたのだ。
~同上書P180

ジョージ・マーティンの先見。
そして、彼が創造する音楽にある美しさと革新。
マルチ・トラックになる前の、4トラック時代の傑作「ラバー・ソウル」。

人間の欲望にはキリがないもので、私たちは次々と新しいテクニックに飛びついていった。少し勇気があれば、たとえばこんな“ステレオ構図”の冒険もできる。非常にヘヴィな音をひとつのトラックに録り、そのほかのトラックで録った音を全部このひとつのトラックにかぶせてしまう(ピンポン録音という)。残った3トラックで、追加の“甘味つけ”を行なうやり方だ。
~同上書P219

技術が日進月歩の時代に、自身の夢を重ね、何より挑戦を怠らなかった姿勢が素晴らしい。

・The Beatles:Rubber Soul (1965)

Personnel
John Lennon (lead, harmony and backing vocals, rhythm and acoustic guitars, Vox Continental organ)
Paul McCartney (lead, harmony and backing vocals, bass, acoustic and lead guitars, piano)
George Harrison (lead, harmony and backing vocals, lead, rhythm and acoustic guitars, sitar)
Ringo Starr (drums, tambourine, maracas, cowbell, bells, cymbals and additional percussion, Hammond organ, lead vocals)

初の全曲オリジナル・アルバム。”In My Life”間奏のピアノや”If I Needed Someone”でのハーモニウムなど、ここでもジョージ・マーティンの役割は実に大きい。それにしても、特に僕の心をとらえるのは”Norwegian Wood (This Bird Has Flown)”。ロック音楽に初めてシタールを持ち込んだ天才的発想。何度繰り返しても色褪せない新鮮さ。
ちなみに、アルバムに収められたテイクの9日前に録音された、元々同アルバムに収録するはずだったテイク1(”Anthology2”所収)の素朴な響きにも僕は惹かれる。

・The Beatles:Anthology 2 (1996)

1995年から96年にかけてリリースされたビートルズの「アンソロジー」は、彼らの音楽のプロセスを垣間見ることができ、素晴らしい企画だったのだが、残念なのはジョンの残した音源をもとに残りのビートルが演奏を重ねてリリースした”Real Love”や”Free As A Bird”のプロデュースを、ジョージ・マーティンでなくジェフ・リンが中心に担当していること。いかにもELOっぽいサウンドと化してしまっていることが、僕的に違和感があるのである。

ジョージ・マーティンの音のセンスはやっぱり素晴らしい。
そんな彼が残した70年代の傑作が、ジェフ・ベックの「ブロウ・バイ・ブロウ」。
梅雨が明けた日の夜に実に相応しいインストゥルメンタル・アルバム。

・Jeff Beck:Blow By Blow (1975)

Personnel
Jeff Beck (electric guitars, bass)
Max Middleton (keyboards)
Phil Chen (bass)
Richard Bailey (drums, percussion)

直接的かつ自然な音の響きが何より良い。
冒頭”You Know What I Mean”から他を寄せ付けない色香帯びるギター・サウンドに酔いしれる。そして、フェイド・アウト、フェイド・インで奏でられるレノン=マッカートニーの”She’s A Woman”の美しさ。また、チック・コリアを髣髴とさせるスティーヴィー・ワンダーの”Cause We’ve Ended As Lovers”の憂愁。続く、同じくスティーヴィー作の”Thelonius”のファンキーさに脳内くらくら。

優れたレコード・プロデューサーの大きな長所のひとつは、忍耐力である。しかし、公平であることも同様に重要だ。
やればできると思っていても、私はただヒットさせるだけのために仕事をしなかったのは、この理由からかもしれない。ヒット曲を作り出す方法はほかにある。
~同上書P374

成功を収めるレコードとは、すべての才能が充分に発揮されてできるもののはずである。私がエラ・フィッツジェラルドとレコーディングした時も同様であった。ジミー・ウェッブとの仕事もそうだった。ジェフ・ベックと大成功したレコードを作った時もそうであったし、私の友人、クレオ・レイン、ジョン・ダンクワース、それにあのすばらしいクラシック・ギタリスト、ジョン・ウィリアムズと仕事をした時も、まさにそのとおりであった。
そして、ビートルズとともに仕事をした年月ほど、それにピッタリあてはまった時期はない。どこからどこまでが自分自身の分野というようなはっきりした境界線は、そこにはなかった。
~同上書P375

すべては才能と才能の掛け算。
卓越したメロディ・ラインを持つラスト・ナンバー”Diamond Dust”の崇高さ。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村

3 COMMENTS

雅之

>すべては才能と才能の掛け算。

過去は人間同士のそれがうまくいった時代でしたね。

これからはさらに、人間とAIが協力して新しい音楽を創造する時代がすぐにでも到来するのではないでしょうか。

https://www.youtube.com/watch?v=LSHZ_b05W7o&feature=youtu.be

>人間の欲望にはキリがないもので、私たちは次々と新しいテクニックに飛びついていった。

将棋や囲碁では、すでにそんな時代に突入して、今までは誰も思いつかなかったような優れた成果をあげつつあります。楽譜と棋譜は極めて似た宇宙だというのが、両方を趣味にしている私の実感です。

http://www.shining-man.com/entry/2017/01/24/145955

返信する
岡本 浩和

>雅之様

人工知能による作曲のレベルはここまで来ているのですか!
すごいですね。

>楽譜と棋譜は極めて似た宇宙だ

子どもの頃遊びで嗜んだ程度で詳しくないのですが、将棋も時間と空間の芸術なのでしょうかね?
興味深いです。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む