カミーユ・サン=サーンスとガブリエル・フォーレ。フランス近代音楽の巨星として君臨するこの二人の作曲家は、師と弟子という関係でありながら互いによきライバルとして刺激しあい、60年近くという長きに亘り親交を結び、家族ぐるみの付き合いの中で多数の手紙のやり取りを行ったことで有名である。
ジャン=ミシェル・ネクトゥー編著「サン=サーンスとフォーレ~往復書簡集1862-1920」(新評論)を読んでみると、この二人の性格の違いが見事に垣間見られ、彼らの残した類稀な作品群を鑑賞する以上にある意味面白い。58年間にものぼる交際の中で残された手紙類はおそらく相当数に上るのだろうが、これまでに発見されたものは全部でわずか138通に過ぎないらしい(それでも十分多いが)。
サン=サーンスは基本的に弟子の手紙を保管しているが、一方のフォーレは保管のことは気にも留めなかったようで、随分紛失しているようである(彼は結婚するまで手紙どころか自らの作品の手稿さえ保管に無頓着だったという)。また、フォーレは、最晩年は別にして、手紙にはほとんど日付を示していないのだが、一方のサン=サーンスは、手紙にほとんど日付を入れているという。しかもサン=サーンスはオリジナルの封筒と共に保管していたゆえ郵便局の消印を見ればある程度の正確な日付は推測できるのだが、フォーレは封筒に関してはほほ全てを破棄している。
サン=サーンスという天才音楽家が極めて几帳面な人だったことがこのことからもよくわかる(とはいえフォーレがずぼらだったということには決してならないが)。
思い出に残る大事なものは捨てられない。捨てないことには新しいものが入ってこないという考えもあるから、随分前にアナログ・レコードやエアチェック・テープ、あるいは大事な雑誌類を廃棄したこともあるが、今になって後悔しているくらいだから僕はどちらかというとサン=サーンス寄りかもしれない(笑)。
ところで、1887年1月23日(日)付、サン=サーンスからフォーレへの手紙
「親愛なるガブリエル、・・・先日、君の熱狂的な支持者に出会いました。その人は、君のすべての曲を買いに行ったのです。それで今、彼から、君はショパンを越えている、という便りを受け取ったところです。・・・それと、君の曲を今猛烈に練習しています。今回は、何とかなりそうです。知れば知るほど、好きになります。とりわけ、ロ長調の『夜想曲』には、この上なく魅了されます。そのうちに、レッスンをお願いしたいと思います。・・・」
何と謙虚な!サン=サーンスにとってフォーレはそもそも同時代の他の音楽家を圧倒的に凌駕していたらしい。
フォーレ:ピアノ名曲集~夜想曲第2番ロ長調作品33-2
ジャン・ドワイアン(ピアノ)
いかにもサン=サーンス好みの、ショパンの影響下にある、1881年頃に作曲されたこの作品はその字の如く夜を想う静けさと闇を切り裂くような激しさが混在した美しい音楽。40年近く前の録音だが、ドワイアンの弾くピアノは流れるような不思議な色気をもつ。
本日、真冬のような寒さ。細かい雨の中を傘も持たずにふらりと歩きながら、フォーレの夜想曲を想う・・・。
おはようございます。
>サン=サーンスという天才音楽家が極めて几帳面な人だった
>僕はどちらかというとサン=サーンス寄りかもしれない
サン=サーンス、フランク、ルクーなど、この時代の、循環形式を好んだ作曲家は几帳面だったんでしょうかね(笑)。そういえば岡本さんのブログも、「愛」「ぶれない自分軸」「気づき」「感謝」「ブラームスのクララへの想い」などといった決まり切った「主題」が手を替え品を替え度々出現し、さながら循環形式のようです(いや、これは褒め言葉です。ライトモティーフと言い換えればカッコいいでしょ・・・笑)。
フォーレの曲は、循環形式といったカチッとしたフォームにはとらわれず、もっと曲線的な自由を感じます。その点で、ドビュッシーと共通の資質もあったと思うのですが、そのドビュッシーはフォーレの音楽について「サロン音楽の代表」など批判して、手厳しかったですよね。
岡本さんにお願い! サン=サーンスとフォーレの親交を「講座」で取り上げられるなら、フォーレが可愛がり、もし健康で長生きしていたら確実にドビュッシーをも超えたであろう、若き天才女性作曲家、リリ・ブーランジェのことも、ちょっとだけ触れて欲しいです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7
男尊女卑のクラシック音楽の作曲家の世界に、彼女なら超弩級の風穴を開けられたのに、早逝が残念で堪りません。
>雅之様
おはようございます。
お褒めいただきありがとうございます。
ライトモティーフ、いいですねぇ。
>そのドビュッシーはフォーレの音楽について「サロン音楽の代表」など批判して、手厳しかったですよね。
そうですね、僕などはどちらかというとフォーレの音楽に愛着を覚えます。
>確実にドビュッシーをも超えたであろう、若き天才女性作曲家、リリ・ブーランジェのことも、ちょっとだけ触れて欲しいです。
リリ・ブーランジェ!!雅之さんに以前教えていただいたこと感謝します。素晴らしいですよね、彼女は。わかりました、様子を見て少し話題にしてみます。