男は弱いものなり~サムソンとデリラ

saint_saens_samson_et_dalila_davis.jpg火曜日から独り暮らしを満喫している。と言いたいところだがさすがに寂しくなってきた。つい数年前まで何十年も独り暮らしだったくせに、ひとたび卒業してしまうとわずか数日のことが耐えられなくなるものなのか・・・。意外に「屁たれ」である(笑)。

とある友人から相談を受けた。彼女はまだ駆け出しのコピーライターである。J-Waveのある音楽番組の原稿を今夜中に提出しなければならないこと、内容がクラシック音楽の作曲家についてであること、そういう理由から原稿の事実確認をしてくれないかという話。

そんなことなら朝飯前。ということでざっとチェックしてみた。「ヴィヴァルディの冬のよろこび」、「ドビュッシー 子供の領分、雪は踊る」に混じって「人生の冬に ブラームス」という一節。ちょうど先日の成城での「愛知とし子×近藤恵三子コラボレートコンサート」で採り上げられたブラームスの間奏曲作品117-1がテーマのようだ。

1891年、58歳のブラームスは創作力の減退を感じ、一通の遺書を認める。そしていつものように避暑のため温泉地バート・イシュルを訪れ、ひと夏を孤独に過ごす。ちょうどその頃、ブラームスは姉のエリーゼを亡くし、名実共に天涯孤独の身になるのだが、ここでもうひとつ重大な事件―誤解により生じた、愛するクララ・シューマンとの長年にわたる友好関係に亀裂が入るという事件が起こるのだ。それはロベルト・シューマンの交響曲第4番のオリジナル稿の出版をめぐってのことだった。クララからオリジナル稿を託されたブラームスは即座に出版を計画したが、実はクララにはまったくそのつもりがなかったのである(ブラームスはクララの同意を得たと誤解していた)。そして、同年この稿が出版されたことを耳にしたクララは、ブラームスがシューマンの名誉を汚すことで利益を得たと激怒し、非難したという。その後、ブラームスはクララとの信頼関係の修復に努め、次のように手紙を送っている。
「40年もの間、忠実にお仕えしてきて、『別の不幸な経験』であるのはとても辛いことです。・・・しかし、今日もう一度繰り返し述べさせてください。あなたとご主人が私の人生のもっとも美しい経験です。その経験にはもっとも豊かで、もっとも気高いものすべてが表されています」
これに対し、クララは1892年9月27日付次のように返答する。
「ヨハネス、最新の《ピアノ小品集》(この小品集は作品117ではなく、作品118と作品119のことのようだが)に免じて、私たちの友情を元の鞘に収めましょう」
「作曲家◎人と作品 ブラームス(西原稔著)」(音楽之友社)からの引用を含む)

やっぱり、男という生物は弱い。というより、夫婦にせよ恋愛の関係にせよ、男と女の関係は男性が譲歩して女性を立てるほうが必ず上手くゆく。様々なケースをみてきてそう思う。間違いない。

サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」
アグネス・バルツァ(メゾソプラノ)
ホセ・カレーラス(テノール)
ジョナサン・サマーズ(バリトン)
サー・コリン・デイヴィス指揮バイエルン放送交響楽団&合唱団

※ちなみにこの音盤は以前も採り上げた。

「サムソンとデリラ」は真の傑作である。合計2時間弱というコンパクトにまとめられた構成と、最初から最後までサン=サーンスらしいメロディの宝庫でどこからどのように聴いても魅力的で何度聴いても飽きない。とにかく音楽的に完璧なのである。そういえばこのオペラもペリシテ人の悪女デリラが主人公の一翼を担うが、感情的でしかも計算高い彼女のペースにサムソンが翻弄され、最後はペリシテ人ともども自滅して行くという内容である。いかにもである(悪女というのはユダヤ人の側から見た場合の考えであって、ペリシテ人側からいわせればサムソンの方こそ残虐で粗暴な悪人だという見方もできる)。

ところで、来春卒業予定の大学生の就職内定率が大幅に悪化したのだと。10数年前のいわゆる超氷河期並みの内定率。大学によっては現時点で大学4年生の内定率が30%ほどだというところもあるようだ。

いつの時代でもそうだが、こういう状況の中でも一部の優秀な学生はいくつも内定をゲットする。そういう学生たちが特別なのかと問われれば、決してそんなことはない。学生生活の何年間かで自分がやりたいことをやり、楽しいことも苦しいことも、喜びも悲しみも、いろんな形で体験している、そういう輩がいざとなったら強い。それと、大事なのは「地頭」が良いということ。そうでないと今の世の中は戦えないし、そうそう渡っていけない。別に学校の勉強はできなくとも良い(とはいえ、日本社会の場合明らかに学歴は重要なのだけど)。家庭生活、アルバイト、言葉遣い、マナー、いろんな面で「キチンとしている」ことが重要なのである。


4 COMMENTS

じゃじゃ馬

ごぶさたしてます。
>男と女の関係は男性が譲歩して女性を立てるほうが必ず上手くゆく。様々なケースをみてきてそう思う。間違いない。
そう、間違いない(笑)
でもまあ、わたしたちは太陽だったから(byらいてう)余裕を持って、男の人をちゃんと立てるべきところでは立てたりするのもいいと思います。
就職、やはり厳しいんですね。
わたしはバブル期だったので、スタートダッシュが遅くても、呑気な大学生活を送った永遠のモラトリアム少女でもいくつか内定がもらえましたが、今は大変なんですね。

返信する
岡本 浩和

>じゃじゃ馬さん
こんばんは。
ほんとに久しぶりですね!元気ですか?
やっぱり間違いないと思いますか?間違いないですよね!(笑)
>余裕を持って、男の人をちゃんと立てるべきところでは立てたりするのもいいと思います。
持ちつ持たれつってことですね。
就職は厳しいですねぇ。つい1年前のことが嘘のようです。
とにかくどこの大学でも学生自身が不安でマジになっているのがビンビン伝わってきます。

返信する
雅之

おはようございます。
ブラームスに最も感謝しているのは、私がシューマンで、いや全てのクラシック音楽で最も好きな曲のひとつ「交響的練習曲」の出版に際し、ブラームスが配慮して遺作の変奏曲5曲を復活させてくれたこと。この曲、今年もいい音盤がいっぱい発売されました。目下一番のお気に入りはエデルマンの弾いたSACD。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3605099
遺作も含めて最高に美しく感動的なので、「交響的練習曲」に思い入れのない岡本さんには、絶対に聴かれたくないです(ささやかな自己防衛反応・・・笑)。
>男と女の関係は男性が譲歩して女性を立てるほうが必ず上手くゆく。様々なケースをみてきてそう思う。間違いない。
クラシック音楽なんて所詮男の作曲家の、男の思考と妄想で出来た産物がほとんど・・・、目茶目茶偏ってますよね。ある意味聴くだけなら、じつにつまらない趣味です。
オペラ「サムソンとデリラ」は傑作ですよね。ただ、私はいかんせん聴き込みが足りず、多くを語れません。なお、往年の名作映画「サムソンとデリラ」のほうは昔から大好きでDVDも所有しています。
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%87%E3%83%AA%E3%83%A9-DVD-FRT-061-%E3%82%BB%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%83%BBB%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%AB/dp/B000LZ6E9K/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=dvd&qid=1258745519&sr=8-2
この話の理解が深まるので、オペラの好きな人にもお薦めですよ。
>家庭生活、アルバイト、言葉遣い、マナー、いろんな面で「キチンとしている」ことが重要なのである。
近年の日本人に最も欠けているのは、利他的な「公共心」でしょう。日本人が目先の自己チューを犠牲にしてでも「公共心」を取り戻さない限り、いくら受験用の勉強が出来て、いい所に就職しても、それは身内だけの自己満足に過ぎず、世界の誰からも好かれず、相手にもされず、結果日本の国際競争力や地位も低下する一方でしょう。
まず、手始めに、みんなで世界中のトイレを掃除するべきか?(笑)

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>遺作も含めて最高に美しく感動的なので、「交響的練習曲」に思い入れのない岡本さんには、絶対に聴かれたくないです
この曲はほんとに聴き込みが足りなくて・・・。しかし、これだけ雅之さんが絶賛されるのを何度もみていると、そろそろしっかり勉強せねばと思っているところです。絶対に聴きます(笑)。
>クラシック音楽なんて所詮男の作曲家の、男の思考と妄想で出来た産物がほとんど・・・、目茶目茶偏ってますよね。
ですね・・・。
「サムソンとデリラ」の映画は僕も観たことないのでこれはいいかもですね。500円というのがまた魅力です。
>まず、手始めに、みんなで世界中のトイレを掃除するべきか?(笑)
おっしゃるとおりです!

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