アルバン・ベルク四重奏団のモーツァルト四重奏曲K.428ほか(1978.6録音)を聴いて思ふ

静と動、陰と陽のメリハリ。
時に刃物のように鋭いヴォルフガング。同時に、芯のある透明感。
モーツァルトの方法はいくつもあるだろうに、人々を心から感動させるモーツァルトは少ない。常識的な方法でやってもだめ、とはいえ、エキセントリックに攻めても無理。鍛錬とセンスと・・・。それこそ表裏一体の機微を知らねば良い演奏はできないのだと思う。また、聴く側も陰陽包含する鑑識眼を持たねばその美しさを享受できないのだと思う。

久しぶりにウィーン・アルバン・ベルク四重奏団の演奏を聴いた。
ヴィオラがハット・バイエルレの時代。知的に磨き抜かれた完璧なアンサンブルと、すべてを受容する柔軟性のある音楽性。
変ホ長調四重奏曲K.428(421b)の明るさの中の哀しみは、いつのモーツァルトにも通じるもの。作曲当時、彼には長男が生まれ、その子どもも2ヶ月後には亡くなってしまった。

おめでとう、お父さんはお祖父ちゃんになりました!昨日17日の朝6時半に、愛する妻は無事大きな、肥った、まんまるい男の子を産みました。夜の1時半ごろ陣痛が始まりましたので、その夜は二人とも、休むことも眠ることもできなくなってしまいました。4時に義母を、それから産婆を迎えにやり、6時に産褥に入りました。そして6時半にすべてが終わっていました。
(1783年6月18日付、ザルツブルクのレオポルト宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」(岩波文庫)P96

第一子の誕生をモーツァルトが飛び上がるように心から喜んだことが文面から如実に伝わる。第2楽章アンダンテ・コン・モートがことのほか厳しくも美しい。

モーツァルト:
・弦楽四重奏曲第16番変ホ長調K.428(421b)(ハイドン四重奏曲第3)
・弦楽四重奏曲第17番変ロ長調K.458「狩」(ハイドン四重奏曲第4)
ウィーン・アルバン・ベルク四重奏団
ギュンター・ピヒラー(第1ヴァイオリン)
ゲルハルト・シュルツ(第2ヴァイオリン)
ハット・バイエルレ(ヴィオラ)
ヴァレンティン・エルベン(チェロ)(1978.6.24-29録音)

1784年11月9日に完成された変ロ長調四重奏曲K.458「狩」の底抜けの明るさは、ヴォルフガングの無垢の象徴の如し。ハイドンの賞賛の言葉が光る。

誠実な人間として神にかけて申しますが、あなたのご子息は、私がじかにあるいは評判によって知っている作曲家の中で、最も偉大な作曲家です。趣味とそのうえまったくすぐれた作曲の技術をおもちなのです。
(1785年2月16日付、レオポルトからナンネル宛の手紙に書かれた、ヨーゼフ・ハイドンよりレオポルト・モーツァルトに贈られた言葉)
「作曲家別名曲解説ライブラリー⑭モーツァルトⅡ」(音楽之友社)P79

何より、第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイの素晴らしさ。
自然の豊かさと人間感情の昇降が錯綜する天人合一の愛ある音楽。何という心地良さ。

私たちはどこから生まれて来たか。
愛から。
私たちはどうして滅ぶか。
愛なきために。
私たちは何によって自分に打ちかつか。
愛によって。
私たちも愛を見出し得るか。
愛によって。
長いあいだ泣かずに済むのは何によるか。
愛による。
私たちをたえず結びつけるのは何か。
愛である。
「シュタイン夫人へ(私たちはどこから)」
高橋健二訳「ゲーテ詩集」(新潮文庫)P136

ウィーン・アルバン・ベルク四重奏団の瑞々しさ。
モーツァルトの音楽は愛なんだと思った。

 

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