レーガーのモーツァルト変奏曲

reger_mozart_variation_weigle.jpg朝早く、起きぬけにモーツァルトの音楽はとてもしっくりくる。「しっくり」というのは曖昧な表現だが、ともかく「ひらめき」を与えてくれる促進剤になるのである。
昔、K.331のソナタに初めて出会った頃、飽きるまで繰り返し何度も聴いた。そのうち自分で弾いてみたくなり、楽譜を買って自己流で鍵盤をなぞりながらせめて主題くらいはという想いで随分練習した。10代の頃の体感的記憶というのは30年を経過しても忘れないものなのだろう、今でも指の動きくらいはしっかり頭の中に入っているのだから我ながら大したものである。

つい先日、盛岡に発つ日の朝は東京も雪混じりで、凍えるほど寒かった。そんな日でも欠かさずチベット体操はするのだが、ふと前述のソナタのテーマが思い浮かび、何となくそのまま音盤を引っ張り出してくるのは能がないかとも思い、マックス・レーガーがこのテーマを主題にして書いた変奏曲があることを思い出し、微かな音で聴きながら身体を動かした。

1914年、グスターブ・ホルストが組曲「惑星」を書き始めた頃、ドイツではマックス・レーガーがモーツァルト式の簡素な編成によるモーツァルト変奏曲を完成させていた。それは、第一次世界大戦が始まろうとするまさに数ヶ月前のことである。ホルストが同時代に聴いた新しい音楽、ドビュッシーの「夜想曲」やストラヴィンスキーの「春の祭典」、あるいはシェーンベルクの5つの管弦楽曲に触発されたのに対し、レーガーはあくまで前時代のロマン的な音楽を拠り所にする。

レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ作品132
イェルク=ペーター・ヴァイグレ指揮ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

モーツァルトは子守唄を書いたのだ。
何と美しい音楽か。それに、何と巧妙なオーケストレーションであり、変奏か。まるで大人をも寝かしつけてしまうようなK331の第一楽章テーマ。原曲のピアノではそれほど感じなかったこういう印象は、管弦楽の衣装を纏うことで目覚め、見事な覚醒の音楽に変貌する。そう、レーガーによるモーツァルト・ヴァリエーションは覚醒の「子守唄」なのである。名曲だ。

ピンと張りつめた冷たい空気を直に肌で感じる室内で、ただただ自分の呼吸を意識しながら聴くこの音楽は、それだけで「瞑想」と化す。それにしても天気が良くなったり悪くなったり、暖かくなったり寒くなったり、安定しない。もうまもなくゴールデンウィークだというのに・・・。

ちなみに、カップリングの、アーノルト・ベックリンに触発された4つの交響詩も素晴らしい(特にラフマニノフも同じ絵にインスパイアされた第3曲「死の島」は、ワーグナーの「トリスタン」からの影響大で聴き応え抜群)。マックス・レーガーについてはブラームス以後の最大の変奏曲作曲家ということ以外詳しくないが、研究の価値ある音楽家だと思う。

2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
「○○の主題による――」などという曲種は、接ぎ木の面白さなのだと思います。
ご紹介の曲、せっかく綺麗な花が咲くモーツァルトの「台木」に、何とも味わい深くも渋い葉っぱや地味な花が咲くレーガーの「穂木」を接ぎ木したものです。でも、渋いのでアブラムシなどの害虫は付きにくいのかも・・・(笑)。逆だったら人気がでるのに・・・、レーガーの台木(サツマイモ)、モーツァルトの穂木(アサガオ)みたいだったら・・・(笑)。
http://hobbyland.sakura.ne.jp/Kacho/Special/Asagao_project_2006/Asagao_02.html
(↑美しい写真のサイトでしたのでご紹介します)
バッハの「音楽の捧げもの」はこの「台木サツマイモ&穂木アサガオ」スタイル、つまり「台木」より「穂木」の魅力ですよね。
しかし、自認していたとおり、レーガーこそブラームスの精神的後継者だとは思いますね。モーツァルト、ブラームスにつながる代表的曲種、レーガー最後の作品「クラリネット五重奏曲イ短調 Op.146」
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1088640
も名作ですね。レーガーの作品は、管弦楽作品には、シューリヒト、ベーム、ヨッフムら、名指揮者の録音もありますし、器楽作品にもたくさんのCDが出ていて、鑑賞には事欠きませんね。
チベット体操を日々実行されているかたは、2000人超の犠牲者が出ている、中国青海省玉樹チベット族自治州で起きた大地震のことが気になられるのでは? 彼らもチベット体操を実践していたのでしょうか?

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
なるほど接ぎ木の面白さですか!確かに!!
>モーツァルトの「台木」に、何とも味わい深くも渋い葉っぱや地味な花が咲くレーガーの「穂木」を接ぎ木したものです。
上手い表現です。それにしても、これが逆だったら本当に人気曲になったでしょうね。
>レーガー最後の作品「クラリネット五重奏曲イ短調 Op.146」
この曲は僕も真に名曲だと思います。
ただし、本文中にも書いたようにまだまだ僕にとっては未知の作曲家なので、いろいろとご教示願いたいと思っています。
ぜひ推薦盤を!!
>彼らもチベット体操を実践していたのでしょうか?
チベット人やチベットに詳しい人に聞いてみると、誰も「チベット体操」なんて知らないんです。
ラマ僧の儀式から派生したという体操なので、そんなものはアメリカ人が勝手にアレンジしたもので、それが日本に輸入されて今密かなブームになっているのかもしれません。
とはいえ、実際にやってみるととても健康にいいんですよね、これが。雅之さんもいかがですか?

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む