ミレッラ・フレーニ「EMIレコーディングス」ほかを聴いて思ふ

感覚作用に上下の位階はないし、五官はその全体で人間の生を実現するものだが、聴覚と発声が、もっとも生の直接反応に結びついているのは事実だろう。たしかに触覚、味覚、嗅覚の直接性に較べたら、聴覚は音を構成し、組織化するという作用を経るだけ、間接化・知性化されているが、視覚に較べれば、はるかに直接的である。視覚は、光の刺激を映像化し、色・形・大小・遠近に構造化し、そこで初めて外界を掴むことになる。視覚にあっては、見るとは、直接に感覚されるより、学習された概念作用によって外界を作ることが多いのだ。
辻邦生「〈美〉の現われる場所」
辻邦生編「絵と音の対話」(音楽之友社)P208

気味が悪いほどの叙情性。
特に、タイトル曲”Forse Ancora Poesia”の、筆舌に尽くし難い美しさ。40余年を経過しても、イ・プーの音楽は(古臭いけど)古びない。ヴォカリーズによるコーラスが何と悲しく響くことか。たぶん、永遠だ。

冒頭、“Corri Corri”の、アコースティックでクラシカルな調べが心に迫る。哀愁帯びた旋律が涙を誘う。ロビー・ファキネティの伸びのあるヴォーカルとバンドの絶妙なハーモニー。

走れ 走れ
明るい朝に目を向けて
早く もっと早く
(対訳:山岸伸一)

イタリアの音楽には「歌」がある。
喜怒哀楽の一切が刷り込まれた、聴く者の魂を刺激する「歌」がある。

・I Pooh:Forse Ancora Poesia (1975)

Personnel
Roby Facchinetti (vocals and keyboards)
Stefano D’Orazio (vocals and drums)
Dody Battaglia (vocals and guitars)
Red Canzian (vocals and electric bass)

何だか大昔、僕は北イタリアに住んでいたのではないかと思われるくらいの不思議な懐かしさ。結成から50年目にしてイ・プーは解散したが、イタリア国内屈指のバンドの長期の人気の理由は、人々の心につながる歌と憧憬だったのだと思う。

あわせてミレッラ・フレーニの「歌」を聴いた。

ミレッラ・フレーニ/EMIレコーディングス
・ビゼー:歌劇「カルメン」より
・ビゼー:歌劇「真珠採り」より
・マスネ:歌劇「マノン」より
アントニオ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1967.6.6-7, 12&14録音)
・グノー:歌劇「ファウスト」より2曲
ジョルジュ・プレートル指揮パリ・オペラ座管弦楽団(1978.6.19-29録音)
・ヴェルディ:歌劇「運命の力」より4曲
プラシド・ドミンゴ(テノール)
フランチェスカ・ガルビ(メゾソプラノ)
リッカルド・ムーティ指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1986.7.6-15録音)
・プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より
・プッチーニ:歌劇「つばめ」より
レオーネ・マジエラ指揮ミラノ・イタリア放送管弦楽団(1966.1.10-12&6.10録音)
・シャルパンティエ:歌劇「ルイーズ」より
フランコ・フェラリス指揮ローマ歌劇場管弦楽団(1964.6.7録音)
・マスカーニ:歌劇「ロドレッタ」より
アントニオ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1967.6.6-7, 12&14録音)
・プッチーニ:歌劇「トスカ」より
・プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」より
レオーネ・マジエラ指揮ミラノ・イタリア放送管弦楽団(1966.1.11-12録音)
・プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」より2曲
ホセ・カレーラス(テノール)
パウル・プリシュカ(バス)
ヴィチェンテ・サルディネーロ(バリトン)
アラン・ロンバール指揮ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団(1977.8録音)

酷寒の12月の夜更けに、暖をいただく安定の、そして迫真の歌唱。
年齢を重ねるにつれ深みを帯びるフレーニの声。フランス・オペラ、イタリア・オペラの美しいアリアたちが、フレーニによって見事に花開く。
それにしても歌劇「ジャンニ・スキッキ」からラウレッタのアリア「私のお父さん」の巧さ!唯一無二の可憐な歌に涙がこぼれる。

 

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