マリア・カラス 伝説の東京コンサート(1974.10.19Live)を観て思ふ

そのとき、マリア・カラスは確かにそこにいた。

会場となったNHKホールは超満員で、彼女が舞台に出る直前は、微動だにせぬ聴衆の、呼吸すら聞こえないほどの静寂と緊張に包まれていたというのだから、そして、深紅のドレスに身を包んで登場したカラスの姿を見るや狂ったように拍手喝采の嵐になるのだから、どれだけ多くの人たちが生身のカラスの歌声を待ち望んでいたのだろう。

カメラは舞台裏のカラスをとらえ、彼女がステージに出る瞬間までを克明に追う。
第一声は、「カルメン、ハバネラ!」(実際には、その前に「ドン・カルロ」からのアリアが歌われたそうだが、カラスが収録を承諾しなかったらしい)。
この「ハバネラ」だけでもう十分。
時に高い音は苦しそうで、確かに全盛期のカラスの歌声ではない。しかし、その後に続く、ディ・ステーファノとの「ホセとカルメンの二重唱」を聴くに及び、嫉妬や駆け引きや、何とも情熱的でありながらどこか老練さを感じさせる恋の歌に、二人の呼吸の見事な一致と並々ならぬパッションを垣間見、相乗的なエネルギーの発露の素晴らしさを思い知った。

たった1台のピアノと二人の歌声があの巨大なホールを堂々と揺らす様に、遠い昔の録画であるにもかかわらず、僕は心底感動した。

マリア・カラス 伝説の東京コンサート 1974
・マリア・カラス日本到着(1974.10.9)
・マリア・カラス記者会見(1974.10.10)
・ビゼー:歌劇「カルメン」より ハバネラ
・ビゼー:歌劇「カルメン」より 花の歌
・ビゼー:歌劇「カルメン」より 第4幕のホセとカルメンの二重唱
・カルディルロ:カタリ(つれない心)
・マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より ママも知るとおり
・マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より トゥリッドゥとサントゥッツァの二重唱
・プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より 私のお父さん
・ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」より 第1幕のネモリーノとアディーナの二重唱
マリア・カラス(ソプラノ)
ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(テノール)
ロバート・サザーランド(ピアノ)(1974.10.19Live)

そして、聴衆の歓呼と熱狂に応えてアンコールで歌われた「私のお父さん」の愛らしさ。
極めつけは、「愛の妙薬」からの二重唱!ここでのカラスは、往年の声を取り戻したかのように神々しく、また、カラスらしい太く意味深い歌を披露する。
ディ・ステーファノとの逢瀬がおそらくクライマックスを迎えていたであろう時期の、最高の記録。

マリアはディ・ステーファノに甘い点をつけて、彼は私の大きな支えなのだと言い、「ピッポ(ディ・ステーファノの愛称)に手を取られてステージに出て行くと、なんだかとても勇気が湧いてくるんだもの」と言った。そして、このコメントからも、彼女の内なる声—彼女の初恋の相手である芸術のそれ—が聞こえてくる。ディ・ステーファノはカラスを愛していた。彼は、長年別居している妻と離婚してマリアと結婚することを望んだが、彼女は首を縦に振ろうとしなかった。彼女は、二人の関係が別の状況で—そして、もっと早い時期に—始まっていれば、と悔やんだ。彼女の別れの言葉は「オール・オア・ナッシング」だった。これ以上つきあっていても意味がない、ということだ。ツアーが終わると、ディ・ステーファノは、離婚までの短いあいだではるが妻のもとに戻り、マリアはパリの自宅に戻った。
ステリオス・ガラトプーロス著/高橋早苗訳「マリア・カラス―聖なる怪物」(白水社)P543

なるほど、ディ・ステーファノから勇気をもらい、舞台上で燦然と輝くマリア・カラスの姿と歌は、あと数年で彼女が天に召されるとは思えないほどの力に漲る。

 

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