英雄

strauss_heldenleben_karajan_bpo.jpg
昨晩、仕事が終わった後HIEDAと外に出た。そろそろ恵みの雨が降って、洗い流してもらいたいところだねと話していた矢先の雨。いつぶりなのだろう、至極気持ちが良い。 

R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」作品40
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

リヒャルト・シュトラウスがベートーヴェンの「エロイカ」交響曲をモチーフに、独自の交響詩として再創造した「英雄の生涯」のいくつかの録音を昨日から少しずつ聴いている。「英雄」とは誰を指すのか、いろいろと論議されてきたようだが、シュトラウス自身を「英雄」と見立てて創り上げた一種の私的ドラマだという見方が一般的だ。

ホルンと弦による変ホ長調の「英雄」の主題は力強い。「これこそ我なり」という強い主張のもとに音楽が鳴り響く。「英雄の敵」と題する第2部は、ひょっとすると「嘘をついている自分」を表すのか・・・。あまりに滑稽で、どうみても本当の自分とはいえない。そして、「英雄の伴侶」で「愛」というものが大仰に語られた後、ついに主人公は戦場に赴き、戦いの末、それも自身との闘いの末、「仮の自分」との闘いに勝利する。過去の実績を振り返っても、結局そこからは何も生まれない。あるのは愛に満ちひとつになった真の自分の姿だけ。

先日、健くんから薦められた阿部敏郎著「随神(かんながら)」(この本は、実話をもとにしたフィクションらしいが、単なるスピリチュアル本ではない)を読んでいて、「英雄の生涯」最終章が鳴り響いた。この満たされた音楽に次の言葉がシンクロした。

P236より
「悟りに至る道は無限の数だけある。権威や形式に惑わされるべからず。準備はできている。さあ行きなさい」
「現代人のあなたが同じ時代を生きる仲間達を導くために、なぜ遥か昔の者達の意見を待つのか」
「なぜやり方や権威に固執するのか」

なるほど・・・。

そもそもシュトラウス御大自身相当のエゴイストっぽいゆえ、音楽そのものもワーグナーの域には及ばないもののかなり妄想が入っているのではないか、これほど自己顕示欲の強い音楽は古今東西そうはなかろうと以前は思っていたが、ベートーヴェンの「エロイカ」の時同様、視点を変えて聴いてみると意外に面白く聴ける。「悟りに至る道」というのと「英雄の引退と完成」が不思議に同期するのだから、笑える。これはギャグと言っていいかも。いずれにせよ僕の勝手な空想だが。

ほかに聴き比べた「英雄の生涯」・・・。
リヒャルト・シュトラウス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1944)
カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1993.5.16Live)

クライバー盤は昔DUMKAというクロアチアのレーベルから出ていた、おそらくFMエアチェック音源の海賊盤(音質は問題なく聴けます)。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
企画書的コメント A案
>そもそもシュトラウス御大自身相当のエゴイストっぽいゆえ
>これほど自己顕示欲の強い音楽は古今東西そうはなかろうと以前は思っていた
>「悟りに至る道」というのと「英雄の引退と完成」が不思議に同期するのだから、笑える。これはギャグと言っていいかも。
カリスマ性のある創業者や教祖って、見た目、皆さんそんな感じですよね。お目出度い限りでございます(笑)。そうやって考えると、カラヤンがこの曲の資質に適任なのは当然ですね(ゴージャスな中にも経営者の孤独感がしっかり伝わる)。
カルロス・クライバー盤は超名演でも、「英雄」としては気分屋で神経質過ぎませんかね? 細部にこだわるのもいいけど、大企業の社長っぽくはない。社長なのに、お客様や部下の好き嫌いが多過ぎる気がする(笑)。予定もキャンセルし過ぎ!!(秘書が泣く・・・爆)もっと、デーンと構えて欲しかったですが・・・。でも道楽で商売やっているからこそ成し得た孤高の名演ですか?
私は、こういう曲は、サクセス・ストーリーの聖地?、アメリカのオケで対抗です。
ライナー&シカゴ響(SACD)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1830286
超名演!このころのライナーやミュンシュの録音には本当に駄作が少ない、そしてどれも紛うことなき指揮者の強烈な個性!!
先日1970年の物故者の話題の時、セルが亡くなる2ヶ月前の来日公演でのクリーヴランドとのシベリウスの2番
http://www.hmv.co.jp/product/detail/651157
のことを思い出し、久しぶりに聴いたのですが、いや凄いのなんの!! 指揮者のオケへのコントロール精度はムラヴィンスキーに匹敵すると思いました。これも究極の名演。
いまだにアメリカのオケは、シカゴ響はライナーの音を、クリーヴランド管弦楽団はセルの音を、ボストン響はミュンシュの音を、指揮者も何代も代わり、奏者も全員世代交代しているにもかかわらず、しっかり持っています。これは物凄いことです。
岡本社長様 
以上の理由により、将来「早わかりクラシック音楽講座」で「英雄の生涯」を採り上げられる際には、ライナー&シカゴ響のSACDも、ぜひ採用していただきたく、何卒お願い申し上げます。

返信する
雅之

企画書的コメント B案
>「現代人のあなたが同じ時代を生きる仲間達を導くために、なぜ遥か昔の者達の意見を待つのか」
お年寄りたちの、古き良き時代の成功した思い出や自慢話(はっきり言って使えないしウザイ、あなたがたの時代はもう終わっている、本当に御苦労さまでした)とかより、今伸び盛りの、IT企業でもベンチャー企業でもいいけど、現役世代の若い経営者たちの生き生きと今を生きる現在進行形の成功話や苦労話、それに未来への夢を聞きたい。この曲は、そういうアプローチじゃないと現代人、現役世代の共感を得にくくなっているのではないかと思います。そういう意味で私のイチ押しは、ラトル&ベルリンPO盤。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1460157
ラトルの楽観的な音楽性とこの曲、マーラーなんかより、ずっとぴったりで、思いのほか楽しさと深みを兼ね備えた超名演でした。これは強くおススメいたします。ラトル指揮だと、楽員も演奏していて楽しいだろうなあ。
先日ラトル&ベルリン・フィルによる一部演奏のDVD付の「くるみ割り人形」全曲
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3853436
が国内先行発売され、思わず店頭で衝動買いしてしまいましたが、これも楽しいのなんの、聴いて、観て、最高に幸せな気分を味わえます。こちらも超おススメです(クリスマス・シーズンに聴くには最適だと思います)。
岡本社長様 
以上の理由により、将来「早わかりクラシック音楽講座」で「英雄の生涯」を採り上げられる際には、ラトル&ベルリン・フィル盤も、ぜひ採用していただきたく、何卒お願い申し上げます。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
こんにちわ。
企画書2案、いずれも捨てがたいです。
カルロスは確かに「英雄」としては神経質すぎるかもしれません。その点が本人も気に入らなくてリリースを差止めしたんでしょうね。
>でも道楽で商売やっているからこそ成し得た孤高の名演ですか?
だと思います。「道楽」だからこその「唯一無二」さが感じられます。
あと、残念ながらご紹介のCDはどれも未聴です。
>このころのライナーやミュンシュの録音には本当に駄作が少ない
そのとおりですね。ライナーの「英雄」はぜひとも聴いてみたいです。セルの有名な来日公演盤も実は聴いておりませんで・・・。こりゃ失格ですね(苦笑)。
>ラトルの楽観的な音楽性とこの曲、マーラーなんかより、ずっとぴったりで、思いのほか楽しさと深みを兼ね備えた超名演でした。
そうですか!ラトルもちょっと前までは追っていたんですが、いつだったか大枚叩いてBPOとの来日公演を聴きに行ったにもかかわらず、あまり感動できなかったあたりから、新盤が出ても無視するようになったんですよね。
「くるみ割り」と合わせてちょっと聴いてみるようにします。
ありがとうございます。
これだけ重要な情報が詰まった企画書、ということで両方採用です。おめでとうございます(笑)。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む