作曲家の恋物語

chopin_etudes_cortot.jpg妻が練習するショパンの「舟歌」を聴きながら、そういえば同曲のコルトーの1933年録音のナクソスによる復刻盤が手元にあったなと思い出し、久しぶりに聴いてみた。「どんな演奏だったかな?」とすっかりその解釈は忘却の彼方だったが、耳にしてみると思わず惹き込まれてしまった。さすがコルトーなり。何よりテンポ感が僕の理想。感情の赴くままに、それこそジョルジュ・サンドとの恋物語が、いよいよ終末を迎えようとしていた時期のショパンの哀しみと慟哭とをゴンドラに乗せながらたゆたう様が見事に描かれている。フランソワのそれと1,2を争う名解釈だと僕は思う。

ついでに、同盤に収録されている練習曲集も聴いてみた。作品10は同じく1933年の、作品25はその翌年1934年の録音。練習曲とはいえ、技術にフォーカスするのでなくあくまでその音楽性に注力しながら音楽を奏でるコルトーの力量というか感性には今更ながら舌を巻く。

練習曲なんて所詮はピアニストの指の訓練のための音楽だろうと軽んじることなかれ。ショパンのそれは単なる練習のための音楽ではない。そのことはコルトーが自身で校訂した楽譜による演奏を聴けば明らか。逆に言うと、ピアニストの芸術的才能をそのまま露呈させるだけの難曲ゆえ、演奏者にとっては大変な緊張感を強いられる音楽だろうと想像する。ちなみに、1835年10月にショパンはヴィーク家で初めてシューマンとクララに会うのだが、その際クララ・ヴィークが弾いた自身の作品10に感動し、大絶賛を送ったという(リストの演奏にはいらだちを覚えたというのだからクララの解釈はショパンの理想にぴったりだったのだろう。クララは作曲家としても演奏家としても超一流だったということだ)。

歴史を横割りで覗いてみると面白い。
ショパンはクララの演奏を聴いた直後、ハイデルベルクで喀血し、10月18日にパリに戻る。その同じ頃、ロベルト・シューマンはクララ・ヴィークに対して思いを綴る最初の手紙を送る(10月20日)。ロベルトがまさにその時期に創作した作品がソナタ第2番ト短調作品22

ちょうどショパンはサンドと出逢う前夜。パリに戻って一層病状がひどくなったショパンは一時期表舞台から一切身を引くことになるが、しばらくして健康を取り戻し、当時つきあっていたマリア・ヴォジンスカに結婚を申し出る。マリアの両親の反対によりこの結婚が成就することはなかったが、ショパンは美しい音楽帳をマリアに贈った。その音楽帳に収められていたのが8曲の歌曲と後に遺作として発表されることになる美しいノクターン第20番「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」(この音楽にはショパンのマリアに対する熱い想いが込められているのだ)。しかし、マリアからの返信は「さようなら、私たちのことを忘れないでください」というものだった。嗚呼、何という悲しみ・・・。

「作曲家の恋物語」。10日後の愛知とし子ピアノ・リサイタルがますます楽しみだ。

ショパン:
・12の練習曲作品10
・12の練習曲作品25
・3つの新しい練習曲(遺作)
・舟歌嬰ヘ短調作品60
アルフレッド・コルトー(ピアノ)


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ねっ、ロベルトとクララの「純愛」を強調すればするほど、はっきりしないブラームスが何ともいえずウザいでしょ(笑)。だから私は、ブラームスを、クララとの不純な愛の関係で語りたくないのです、うっとおしいだけで、ちっとも天晴れじゃないから・・・、ブラームスよ、男らしくはっきりしろ! 喝だ!! 彼の作品は大好きなのに、私はとても残念です。
その点、ショパンとサンドの話は、ああいう煩わしい奴がいないからいいです。「作曲家の恋物語」は、断然ショパンのストーリーのほうが気に入りそうです(笑)。
私がショパンの作品の中で最も好きな練習曲集、特にOp.25 の12曲は、いつ聴いても最高です。
第1番 『エオリアン・ハープ』(牧童)を聴くと、幼いころ聴いた、童謡『おうま』を思い出すんですよね(笑)。もう、それだけで幸せな気分。
『エオリアン・ハープ』(牧童)
http://www.youtube.com/watch?v=T09OvyzM0Xo&feature=related
『おうま』
http://www.youtube.com/watch?v=_ezEgC8nKiE
コルトーの歴史的名盤については、ピアノにあまり詳しくない私が、とやかく言うまでもないでしょう。じつに味わい深い演奏です。
今日はこの辺で・・・。井上道義&名フィルのショスタコ、今回も盛り上がりましたよ!! とてもよかったです(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
>ロベルトとクララの「純愛」を強調すればするほど、はっきりしないブラームスが何ともいえずウザいでしょ
ウザいですねぇ(笑)。しかし、それでも僕はブラームスのことは憎めません。ロベルトとクララの愛はひねくれてみると「若気の至り」という側面もありそうですから(爆)。天邪鬼です。
>ブラームスよ、男らしくはっきりしろ!
だから、こういうウジウジがまた共感してしまうところなのです。
ところで、ショパンの作品25-1と「おうま」、確かに雰囲気にてますね。気が付きませんでした。
>もう、それだけで幸せな気分。
その気持わかります。
>井上道義&名フィルのショスタコ、今回も盛り上がりましたよ!! とてもよかったです
ああ、羨ましい!!どんなだったんですか?!知りたい!聴きたい!

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