コンチェントゥス・ヴォカリス女声合唱団ほかモーツァルト カノン全集を聴いて思ふ

歴史は戦争によって作られてきたといっても過言ではないだろう。

誰しも有事に音楽どころではない。
モーツァルトの晩年は経済的困窮に悩まされた日々であったが、ちょうど彼の作品が顧みられなくなり、また公開演奏会の収入が激減した時期は、オーストリアがトルコと一戦を交え〈墺土戦争〉(1787-91)、多くの貴族は戦禍を免れるため疎開していたまさにその時期と重なる。

父の死による自由の獲得がモーツァルトの精神性を引き上げ、一層内的発動の哲学的音楽を創造したことが、売れなくなった理由だという説があるが、単に世の中の状況がそれを許さなかったに過ぎないと考えた方が現実的なのかも。運が悪かったのだ。
そのことを揶揄するのか、あるいは鬱憤晴らしなのか、傑作「ジュピター」交響曲の後、いくつもの下品な、スカトロ趣味のカノンを彼はおそらく遊び心を交えて書いている。

例えば、「プラーターで会えるのは、蚊とウンコの山さ」(K.558)、「おれの尻を嘗めろ」(K.559)などなど、ひどいものだ。
しかしながら、すべて天才モーツァルトの仕業。彼はれっきとした人間、それも僕たちの何ら変わりない俗人だったのである。そこがやっぱり面白い。

モーツァルト:カノン全集
・私は心からあなたが好きK.348(382g)
・おい、フライシュテットラーK.232(509a)
・プラーターに行こうK.558
・Difficile lectu mihi mars K.559
・ああ、なんとバカなパイエルK3.560a(559a)
・あの子が死んだK.229(382a)
・幸なりかな、ものみなすべてK.230(382b)
・4声のカノンイ長調K.89aI(73i)
・いやいや、人生の短いことK.228(515b)(二重カノン)
・わが愛する人よK.562
・カノンヘ長調K.508a第1、2曲
・カノンヘ長調第1-5曲/カノンヘ長調K6.508a第3曲
・シャンパンがグラスに光る店でK.347(382f)
・浮き浮きと愉快にやればK.507
・皆さんの健康を祝しますK.508
・仕度をしろK.556
・おれの尻を嘗めろK.231(382c)
・酒ほど気分のいいものはないK.233(382d)
・食って飲めば体のためK.234(382e)
・お休みなさいの歌K.561
・カノンヘ長調第6-10曲/カノンヘ長調K.508a第4-6曲
・4つの謎のカノンK2.89aII(73r)
・カノン(4声)ハ長調K.Anh.191(562c)
・カノン(3声)ハ長調K6.508A
・私は涙にくれるK.555
・私の太陽は沈んだK.557
・カノンヘ長調第11-14曲/カノンヘ長調K.508a第7、8曲
・4声のカノン変ロ長調K6.562a
・カノンヘ長調
・キリエト長調K.89(73k)
・アヴェ・マリアK.554
・アレルヤK.553
コンチェントゥス・ヴォカリス女声合唱団
コルス・ヴィエネンシス
指揮:グィド・マンクージ、ウーヴェ・クリスティアン・ハラー
バイエルン放送交響楽団員(1986.10, 1990.7, 1991.1録音)

晩年、モーツァルトは自作目録を作っていたが、1788年9月2日付で記入された10曲ほどのカノンには、「アレルヤ」K.553や「アヴェ・マリア」K.554が含まれる。さして重要な作品ではないと思うが、グレゴリア聖歌の旋律からとられた短い「アレルヤ」(カノン)には、神頼みのような藁をもすがる祈りが聴こえてくるようでとても興味深い。
見事な道楽。これあってのヴォルフガング・アマデウス。こういうところにこそモーツァルトの神髄が隠されているのかも。

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