グティエレス プレヴィン指揮ロイヤル・フィル ブラームス ピアノ協奏曲第2番(1988.7録音)を聴いて思ふ

湿気の強い熱帯夜にヨハネス・ブラームス。
音楽は予想以上に熱く、そして至るところで咆哮する。それは指揮者の裁量なのか、はたまたピアニストの独断なのかわからないけれど、協奏曲が、文字通り一体となって僕の心をあちこちと慄かせる。時に激しく、時に優しく。

その間ブラームスは愉快なことをしゃべり散らす。たとえば彼の《協奏曲変ロ長調》の練習のこと。
「・・・アダージョでチェロのソロが入るところがあるだろう。若造のチェリストが、とんだ間抜けでへまばかりしている。でも僕は、表向きは如才なく振る舞うんだ。そういう時、結構うまくやるんだよ(と言いながら変な顔をした)。第一ヴァイオリンに向かって“どうか皆さん、ここの部分をもう一度お願いします、でもあなたがたには責任ありませんからね”。それでもだめなら第二ヴァイオリンの方を向いて“どうぞ、ここをもう一度お願いします、でも皆さんには責任ありませんよ”。そのときアホなチェリストの方は絶対に見ないんだ」(もちろん第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンは、左右に分かれていた)
こんな不器用なやり方を「うまい」だなんて、先生はとんでもなく変わった御仁だ。

ホイベルガー、リヒャルト・フェリンガー著/天崎浩二編・訳/関根裕子共訳「ブラームス回想録集2 ブラームスは語る」(音楽之友社)P151

決して嘘をつけない真面目さというのか、ブラームスの音楽には、彼自身の本質が見事に刻印される。誰がどのように弾こうと協奏曲変ロ長調は、重厚かつ堅気のブラームスの本領を衝いた傑作だ。

ブラームス:
・ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
・ハイドンの主題による変奏曲作品56a
オラシオ・グティエレス(ピアノ)
アンドレ・プレヴィン指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(1988.7.8&9録音)

僕の厖大な音盤コレクションには、実は知らない(?)音盤も数多くある。そのほとんどはいただきもので、そのまま棚の奥に眠ってしまうことも残念ながら多い。熱風凄まじい日に、身体の火照りを癒そうと棚を漁って発見したのがこれ。

オラシオ・グティエレスは、キューバ出身のヴィルトゥオーゾ・ピアニストだそうだが、寡聞にして知らなかった。しかしながら、じっくりと耳を傾けてみると、なるほど熱気のある、そして陽気なピアノを高らかに鳴らす技巧派ピアニストであることがわかる。ちなみに、アンドレ・プレヴィンの本分発揮は、第3楽章アンダンテの瞑想。ピアノとの掛け合いが実に美しく、いかにプレヴィンがこの作品を愛するのかが手に取るようにわかる。

真の感動は人間事を超えたところにあるのだと思う。
それこそ大自然や大宇宙に芯から対峙できたときに起こるあの感覚だ。
あまりに人間的なブラームスの音楽を享受するのはある意味難しい。手放せ、諦めろとこれらの音楽は常に語りかける。終楽章アレグレット・グラツィオーソの粋なダンス。

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